第一章 君無くして春は来ず

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 俺が椅子を確認してみると、銃弾の跡があった。俺が本村の姿を探すと、カメラを持っていた本村は、真顔で電話を持ちどこかに連絡をしていた。  撃ち込まれた位置から、銃弾の軌跡を辿ってみると、窓は開いていないが、換気扇が幾つか回っていた。もしかして、換気扇の回転の隙間を通ってきたのかと、撃った場所を計算していると、心配した先生が俺の手を取った。 「笑われてもしょうがないよね?夏目君、居眠りしてはダメよ。卒園証書を取りに行こうね」  狙撃だった場合は、撃ったら場所を特定されないように移動を重ねる。ならば、同じ位置からは飛んで来ないだろう。  俺は走って檀上に登ると、卒園証書に飛びついた。 「ありがとうございます」 「夏目君、貰えばいいというものではないの。私が読み上げるから、返事をして受け取ってね」  この幼稚園の園児で、スナイパーに狙われる者などいないだろう。見回した限りでは、保護者にも怪しい人物はいない。すると、狙われているのは俺で、はやく部屋を出ていった方がいいだろう。 「夏目鷹弥君!」 「はい!!」  名前を呼ばれたので返事をしたが、挙動不審になってしまった。
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