第一章 君無くして春は来ず

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「それと、本村まで屋根に来る事は無かったでしょう?」 「まあ、付き合いだな」  三人でそっと屋根から降りると、忍び込むように卒園式に戻った。 「夏目君、保護者の方にお手紙を読んでね」 「はい、分かりました」  返事はしたものの、手紙が見つからない。仕方がないので、白紙の紙を見て、即興で何か言うしかない。 「本村さん。親のいなかった僕の、保護者になってくれて、ありがとうございます。施設が大嫌いなので、又、脱走しなくてはならないかと思っていましたが、保護者がいてくれたお陰で、無事、幼稚園を卒業できます。この感謝と恩は、倍にして返したいので、少し長生きしていてください」  これで終わりだと、本村を見ると、涙を浮かべて感動していた。今の文面で、何を感動するというのだろう。でも、俺は本村に走り寄ると、飛びついてハグしておいた。 「本村!いつも、ありがとう!!!」 「どういたしまして」  本村は、俺を抱き上げると、白紙の手紙をポケットにしまった。
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