第一章 君無くして春は来ず

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 本村とは、俺が軍部の学校に強制入学させられ、寮に入れられた時からの腐れ縁で、今は一緒に住んでいる。  本村はその後キャリアを積み、又、元々の家柄が良かったので順調に出世しているが、俺は今も室長のままだ。  だが、考えてみると、0歳児になった時点で公安をクビにならなかっただけ、有り難いと思う。 「本村、保護者って言っても名義だけでしょう?来る必要はあった?」 「姉さんに、それを言ってみろ。夏目を引き取る!!と強制実行するよ」  本村は、仕方なく来たように主張しているが、どことなく楽しそうで歩調が軽い。 「本村、面白がっているでしょう?」 「まあ、楽しいよ。俺は子供が出来ない体だったのに、こんなイベントに参加できるなんてね……夢みたいだ」  本村は患った病気のせいで、子供が出来ないと分かり、家を継がずに姉に譲り、自身は軍部に入隊していた。その時の本村は、やや斜に構えて世の中を見ていて、どこまでも冷静であった。少なくとも、卒園式に嬉々として出席する保護者には、絶対にならない雰囲気だった。どこで、人生の価値観が変わるかは、本人も予想できない事柄なのだろう。 「夏目は初めての卒園式でしょう?前の時は地下社会にいたのだから」 「まあ、そうだね。でも、行きたくない……」  あのガキ共に構われて、耐えられるのか疑問に思う。 「ははは、頑張って!」
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