第一章 君無くして春は来ず

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 俺は認めたくないのだが、幼稚園に行くと一番小さい。幼稚園児が俺を抱えられるほどで、小さいと認めるのが嫌なので、近寄りたくない面もある。 「桜の下を少し歩こうか……」  本村は俺を抱えて、桐圓学園の道路を歩き始めた。  桐圓学園は、私立の一貫校で、保育園から始まり、大学院、研究所まで揃っている。この学園のいい所は、天才を伸ばす授業が充実していることで、事実上のスキップができる。  俺も幼稚園に所属しながら、大学の講義を受けていた。 「花びらが落ちてきた……」  本村に抱えられているので、桜の枝が近い。俺が、桜を手にとり口に含むと、本村が少し慌てていた。 「夏目!桜餅が食べたいの?後で買ってやるから、ペッしなさい!」 「いやいや、春の味というのを確認しただけ」  こうして、本村と歩いていると、犯罪ばかりの世の中が嘘のような感じがする。 「夏目、相馬部長に合同調査の依頼をしたら、第九公安部を使っていいと言われたよ」 「合同調査?」  警察と公安が、合同調査をするのは珍しい。 「卒園式が終ったら説明するよ」
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