第一章 君無くして春は来ず

6/15

187人が本棚に入れています
本棚に追加
/283ページ
 のんびり歩いていたかったのだが、黒塗の車が来ると、乗せられてしまった。 「間に合わなくなりますので、急いでください!」  本村の部下が運転しているのかと思ったら、本村家の専用車であった。本村の姉の、純花が、俺の卒業式見たさに急かしていて、車を用意したらしい。 「俺の卒園式など、どうでもいいでしょう!」 「……姉さんは、自分が出席すると言い張っていたからね……」  純花は結婚していて、二人の娘がいる。だが、男の子は初めてだと、張り切っていたらしい。 「しかも、夏目だからな……もうすぐ小学生だというのに、まるっきりの幼児で、小さいうえに、見た目が人形。動かなかったら、ショーウィンドーに飾れる」 「……そういう捜査もアリかもな。今度、やってみよう」  幼稚園に到着すると、既に全員来ていて、入場する所であった。 「間に合ったというよりも、遅刻だな……」  皆、園児服であったので、俺のスーツが浮いてしまう。園長先生に、予備の園児服は無いかと尋ねると、予備はあるが、サイズがないと言われてしまった。 「夏目君、とても小さいからね」 「では、このまま入場します」
/283ページ

最初のコメントを投稿しよう!

187人が本棚に入れています
本棚に追加