68人が本棚に入れています
本棚に追加
1 Amane.side
幸せなら手をたたこう。
幸せなら手をたたこう。
そう執拗に繰り返すそんな歌を初めて聞いた時、僕は、自分の未来を悟った。
僕は、十歳の頃に、事故で右腕を失った。
それと同時に、未来までも、失ってしまった。
『お前が出来損ないだからそんな欠陥品になったんだ』
長男だった僕を、自分と同じ医者に育てる気だったお父さんは、お母さんをよくそう言って責めた。
毎日毎日、僕とお母さんを並べて、汚いものでも見るように睨みつけて、何度も何度も、そう言った。
『あんたがそんなんだから』
お父さんに責められたあと、お母さんはその苛ちや哀しみを僕にぶつける。
僕を椅子に縛り付けて、何度も何度も殴る。
『兄貴が最初からいなかったら良かったのに』
僕の代わりに医者になるよう強く言われて育った弟は、僕を憎んでいる。
お前が最初からいなければ、諦めもつくのにと。
学校には通わせてもらってるけど、成績もいいとは言えないし、友達も、いるとは言えない。
僕の人生は、最初から決まってるんだ。
腕を、失ったその瞬間から。
『幸せなら手をたたこう』
なら、たたく手がない僕は?
幸せになるな、と神さまに言われた気がした。
沢山の人を、不幸にしているのだから。
最初のコメントを投稿しよう!