11

1/1
前へ
/29ページ
次へ

11

そんな日々が続く中で、僕は希が吐く嘘を、幸くんの前では真実にしようと決めた。 幸くんの前では、僕も、希が話す素敵な家族の輪の中にいる。 現実がどうとか、そんなことは、幸くんには関係ない。 「新田、ちょっといいか」 「はい」 お昼の時間。 いつも通り幸くんと食堂に行こうと席を立った時、僕は先生に呼ばれてしまって、幸くんには先に食堂に行ってもらった。 先生の話は、今度の三者面談のことだった。 いつも、一応お母さんが来てくれるけど、今回は、まだ三者面談のことを伝えられていない。 曖昧な返事しか出来なくて、話が長引いてしまったから急いで食堂に行ったけど、そこに幸くんの姿はなかった。 「幸くん…」 キョロキョロと辺りを見回すと、中庭の隅の方に、見慣れた後ろ姿を見つけた。 誰かと話をしているみたいだ。 ここからは離れていて、姿は見えるけど、声は聞こえない。 話をしている相手は、希だった。 「幸く……」 声を掛けようとした、その瞬間。 二人の姿が、重なり合う。 「ぁ………」 希が、幸くんにキスをした。 時間が、止まったような気がした。 目の前が、暗くなる。 気がついたら僕は、逃げるようにその場から走り去っていた。 どういう、ことだろう? 二人は付き合っているんだろうか? 男同士だからとか、そんなことは気にならなかった。 それよりも、今初めて気づいた自分の気持ちを、抱え切れなくて、はち切れてしまいそうで、僕は足を止めることが出来なかった。 「幸くん……」 名前を、呼ぶと、余計にリアルになる。 僕は、幸くんが好きだった。 幸くんに抱いていたこの不思議な気持ちは、恋だった。 そんなことに、今、初めて気がついた。
/29ページ

最初のコメントを投稿しよう!

68人が本棚に入れています
本棚に追加