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そんな日々が続く中で、僕は希が吐く嘘を、幸くんの前では真実にしようと決めた。
幸くんの前では、僕も、希が話す素敵な家族の輪の中にいる。
現実がどうとか、そんなことは、幸くんには関係ない。
「新田、ちょっといいか」
「はい」
お昼の時間。
いつも通り幸くんと食堂に行こうと席を立った時、僕は先生に呼ばれてしまって、幸くんには先に食堂に行ってもらった。
先生の話は、今度の三者面談のことだった。
いつも、一応お母さんが来てくれるけど、今回は、まだ三者面談のことを伝えられていない。
曖昧な返事しか出来なくて、話が長引いてしまったから急いで食堂に行ったけど、そこに幸くんの姿はなかった。
「幸くん…」
キョロキョロと辺りを見回すと、中庭の隅の方に、見慣れた後ろ姿を見つけた。
誰かと話をしているみたいだ。
ここからは離れていて、姿は見えるけど、声は聞こえない。
話をしている相手は、希だった。
「幸く……」
声を掛けようとした、その瞬間。
二人の姿が、重なり合う。
「ぁ………」
希が、幸くんにキスをした。
時間が、止まったような気がした。
目の前が、暗くなる。
気がついたら僕は、逃げるようにその場から走り去っていた。
どういう、ことだろう?
二人は付き合っているんだろうか?
男同士だからとか、そんなことは気にならなかった。
それよりも、今初めて気づいた自分の気持ちを、抱え切れなくて、はち切れてしまいそうで、僕は足を止めることが出来なかった。
「幸くん……」
名前を、呼ぶと、余計にリアルになる。
僕は、幸くんが好きだった。
幸くんに抱いていたこの不思議な気持ちは、恋だった。
そんなことに、今、初めて気がついた。
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