15 Nozomu.side

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15 Nozomu.side

「……ですよね。って、先輩?聞いてます?」 「え?あ、あぁ…うん、聞いてるよ」 『ごめんなさい。突然こんなことして…。 でも、俺先輩のことが好きなんです…!俺と…』 『ごめん。俺…他に好きな人がいる』 『………』 『その人は…多分俺のことなんて何とも思ってないけど…。 でも…心の中にいつもその人がいるのに、そんな状態で希の気持ちは受け入れられない』 “それって、兄貴のことですか?” それは、聞けなかった。 わかりきってることだったから。 兄貴は俺の言うとおりに先輩から離れて、今は、またいじめにあっているらしい。 俺は兄貴がどうなろうとどうでもいいのに、先輩は、そうじゃない。 兄貴が先輩から離れてから、先輩はいつも上の空で、俺の話なんか聞いてないし、俺のことを、見ていない。 どうして? 兄貴は俺の人生を奪ったのに、俺は、兄貴から先輩を奪えない。 そんなの、おかしい。 「先輩。今度、動物園に行きませんか?」 「え…?」 「ライオンの赤ちゃんが見られるんですよ!ね、行きましょう?」 「あぁ…うん。行こうか」 兄貴との思い出なんて、全部俺に塗り替えて。 兄貴なんか見ないで。 俺だけを…見ててほしい。 日曜日。 約束通り先輩は待ち合わせの場所に来てくれて、二人で動物園に向かった。 沢山見て回って、沢山話をした。 先輩は沢山笑ってくれたけど、でも、やっぱり…俺を見てはくれなかった。 「先輩…」 「ん?」 「…写真、撮りましょうよ」 「…うん。いいよ」 兄貴の携帯に、一枚だけ保存されていたツーショット。 二人とも、幸せそうに笑っていた。 同じ場所で、同じ角度で写真を撮ってもらったけど、その写真の先輩の笑顔が、あの写真の笑顔とは違うことは、見なくてもわかった。 結局先輩は、どうしたって俺のものにはならない。 兄貴がいる限り、ずっと。 兄貴のいじめのことだって、先輩が気付くのは時間の問題だろう。 そしたら…もう俺の入る隙間なんてなくなってしまうかもしれない。 どうしたらいい…? どうすれば… 俺に悪魔が囁いたのは、その時だった。
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