25 Amane.side

1/1
前へ
/29ページ
次へ

25 Amane.side

階段を、一歩一歩上がるごとに、今までの思い出が、一つ一つ頭の中に浮かんだ。 少し、おかしくなって笑った。 悪い思い出の方が沢山あるのに、良い思い出しか浮かんでこなかったから。 屋上に続く扉を開けると、真っ青な空が、視界一面に広がった。 本当に、綺麗な青空だった。 寝転んで空を見上げると、自分が、とても小さく思える。 小さくて…見えないくらいに小さくて、きっとこのまま消えてしまっても、誰も気づかないんだろう。 余計に、自分が惨めになる。 死ぬって、どんな気持ちだろう。 死ぬために、ここに上がってきたわけじゃなかったような気がするけど…今僕の頭に思い浮かぶのは、それだけだった。 死ぬって、どんな気持ちだろう…? きっと、暗くて、寂しいだろう。 独りぼっちで、誰の声も存在もなくて……でもそれって、今の僕と同じだ。 家にも、学校にも、どこにも居場所がない今の僕は…死んでいるのと、ほとんど同じ。 でも、死んだらきっと…こんな、抉るような胸の痛みを感じることはない。 寂しくて、どんなに孤独でも…もう傷つけられることも、人を愛することもない。 「こうくん…」 幸くん…。 幸くんと出会ったこと。 友達になれたこと。 恋をしたこと。 それだけは確かに…幸せだった。 「しあわ…せ…なら………てを…たた…こう…」 消え入るような声で、震える腕を空に向かって伸ばす。 幸くん…。 もう一度…もう一度だけ、この手を叩いて…。 そしたら…僕は、飛べる気がするんだ。 幸せを感じたまま、死ねる気がする。 屋上の縁に立って、風を感じる。 「幸くん…」 心に浮かぶのは、幸くんの顔ばっかりだよ。 ありがとう、僕に話しかけてくれて。 僕に、笑いかけてくれて。 僕を友達にしてくれてありがとう。 幸くんがいたから、僕は幸せでした。 でも、もう、さよならだね。 「天音!」 一歩踏み出そうとしたその時、僕を呼ぶ声が聞こえた。
/29ページ

最初のコメントを投稿しよう!

68人が本棚に入れています
本棚に追加