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25 Amane.side
階段を、一歩一歩上がるごとに、今までの思い出が、一つ一つ頭の中に浮かんだ。
少し、おかしくなって笑った。
悪い思い出の方が沢山あるのに、良い思い出しか浮かんでこなかったから。
屋上に続く扉を開けると、真っ青な空が、視界一面に広がった。
本当に、綺麗な青空だった。
寝転んで空を見上げると、自分が、とても小さく思える。
小さくて…見えないくらいに小さくて、きっとこのまま消えてしまっても、誰も気づかないんだろう。
余計に、自分が惨めになる。
死ぬって、どんな気持ちだろう。
死ぬために、ここに上がってきたわけじゃなかったような気がするけど…今僕の頭に思い浮かぶのは、それだけだった。
死ぬって、どんな気持ちだろう…?
きっと、暗くて、寂しいだろう。
独りぼっちで、誰の声も存在もなくて……でもそれって、今の僕と同じだ。
家にも、学校にも、どこにも居場所がない今の僕は…死んでいるのと、ほとんど同じ。
でも、死んだらきっと…こんな、抉るような胸の痛みを感じることはない。
寂しくて、どんなに孤独でも…もう傷つけられることも、人を愛することもない。
「こうくん…」
幸くん…。
幸くんと出会ったこと。
友達になれたこと。
恋をしたこと。
それだけは確かに…幸せだった。
「しあわ…せ…なら………てを…たた…こう…」
消え入るような声で、震える腕を空に向かって伸ばす。
幸くん…。
もう一度…もう一度だけ、この手を叩いて…。
そしたら…僕は、飛べる気がするんだ。
幸せを感じたまま、死ねる気がする。
屋上の縁に立って、風を感じる。
「幸くん…」
心に浮かぶのは、幸くんの顔ばっかりだよ。
ありがとう、僕に話しかけてくれて。
僕に、笑いかけてくれて。
僕を友達にしてくれてありがとう。
幸くんがいたから、僕は幸せでした。
でも、もう、さよならだね。
「天音!」
一歩踏み出そうとしたその時、僕を呼ぶ声が聞こえた。
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