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「天音!」 左手を掴まれて、誰かの胸に引き寄せられた。 それが誰なのか考える暇もなく、耳元で大好きな声が叫んだ。 「何やってんだよ…!落ちたら死んじゃうだろ!何で……」 「…幸、くん……」 「間に合って良かった……良かった…」 幸くんは、泣いていた。 僕より沢山、僕が死ななかったことに、泣いていた。 「幸くん……どうして泣いてるの?」 「天音が生きてるから。今、俺の腕の中にいてくれるからだよ」 「…どうして、それで泣いてるの?」 僕が生きてたから、どうして幸くんが泣くの? 僕が生きてたら、苦しむ人が沢山いるんだよ。 僕が死ななかったら、困る人が沢山いるんだよ。 「お父さんのこと…天音の家のことは、先生から聞いた。ごめん…何にも、気づいてあげられなくて」 僕の家のこと、家族のこと…知ってるなら、離して。 全部知ってるなら、幸くんにもわかるでしょ? 僕の居場所はもうどこにもない。 帰るところは、どこにも。 「幸くん……ありがとう…」  最後にもう一つ、幸せなことが起きた。 幸せなんて訪れないと思っていた僕に、こんなに沢山…もう、充分だよ。 「天音!そんな…ありがとうとか、最後みたいなこと言うなよ。ありがとうなんて…俺は、お前がいじめられてることも、家のことだって…何にも気づいてあげられなかった。そんな…お礼言われることなんて、何にも…」 「そんなことないよ。…幸くんのおかげで、僕は救われた。一瞬でも、幸せになることが出来た。 幸くんに、会えて良かった。 僕は本当に…」 「だから!」 体を離されて、やっと幸くんの顔が見えた。 あの時と同じ、怒っているような、悲しんでいるような…僕を、想ってくれているような表情。 どうして、そんな顔するの? そんな顔は…幸くんのその想いは、僕に向けていいような感情じゃないのに。 「だから…何で、そんな…もう会えないみたいなこと言うの。これから……これからなのに!」 「…何が…?」 「天音。俺は… 俺は……天音が好きだよ」 その瞬間、時が止まった。 感情も、思考も、何もかもが止まった。
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