27 Kou.side

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27 Kou.side

好きだった。 ずっと好きだった。 何でこんなに、遠回りしたんだろう。 俺の気持ちは、初めて会った時からずっと、何一つ変わらなかったのに。 「幸、くん……」 「好きだよ。初めて会った時から…俺はずっと天音が好きだった」 天音は、信じられないというように首を振った。 「どうして、そんな嘘つくの?」 「嘘じゃない。俺は…」 「違う……違う。だって幸くんは……」 「…希のこと?」 やっぱり、あの時、天音は近くにいたんだ。 希の気持ちを、初めて知ったあの時…自分の想いを、改めて確かめたあの瞬間。 「確かに、希は俺のことを好きだって言ってくれた。 でも…ダメなんだよ。俺は…天音じゃなきゃダメなんだ。 希にも、ちゃんとそう言ってきた。 俺は、天音が好きだから、天音のそばにいたい」 天音の目から、涙が零れ落ちる。 全部伝わらなくてもいい。 少しでも、ほんの少しだけでも、天音の心に俺の言葉が染み込んでいってくれればいい。 いつか、天音が笑って全てを受け入れられるようになるまで、俺は何度でも伝えるから。 「天音」 もう一度、その細く華奢な体を抱きしめる。 ゆっくりと、背中に腕が回る。 「生きててくれる?…俺の、近くで」 隣じゃなくていい。 ただ天音が許してくれる一番近い距離で、生きていてほしい。 笑っていてほしい。 幸せで、いてほしい。 「幸くんは…僕が生きてても、困らない?」 「困らない。嬉しいよ。だから生きててほしい」 「…幸くんは、僕が死んだら悲しい?」 「悲しいよ。苦しくて堪んないよ…だから… 俺のために生きてて。いつか天音が…自分のために生きられるようになるまで」 天音は、少しだけ考えて、そして、震える呼吸のあと、ゆっくりと頷いてくれた。 「…天音」 もう一度体を離して、右手を上げる。 「叩いて。俺の手」 ゆっくりと、天音の震える左手が上がって、そして、弱く小さな力で、手のひらを叩いた。 「俺は幸せだよ。天音が今ここに…俺のそばにいてくれて。 約束したでしょ?幸せな時は、俺が天音の右手になるって」 どんなに小さな音でもいい。 これが俺たちの幸せの音だから。 これから、沢山奏でていこう。 天まで届くように、大きく、高らかに。
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