6人が本棚に入れています
本棚に追加
/13ページ
「荷物、ちゃんと全部詰めたわよね? 忘れ物はない?」
「大丈夫よ。昨日何度も確認……あっ!」
──そうだ、あの絵本。
今朝夢を見るまですっかり忘れちゃってたけど、確かまだ押し入れに……。
「あった!」
“白雪姫”
表紙の文字と目が合って、声を上げた。
懐かしい。
昔はずっと、肌身離さず持ち歩いていたその絵本。
自分と同じ字をしたプリンセスがいるのがなんだか嬉しくて、誕生日プレゼントにおねだりしたっけ……。
「ちょっと何してるの。お母さんは先にリビングに行ってるから、早くしなさいよ?」
「はーい」
私は元気に返すと、胸に抱いたそれを段ボール箱の中に詰めた。
*
「よろしくお願いします!」
荷物の積み込みを終え、引っ越し屋さんに挨拶する。
私は先におじいちゃん家へ向かうため、お母さんの車に乗り込んだ。
「もう忘れ物はない? 大丈夫?」
「大丈夫だって! 心配しすぎよ」
「あっあと、おじいちゃんにはできるだけ迷惑かけないようにね」
「勿論、ちゃんと気をつけます!」
……もう、お母さんったら本当心配性なんだから。
口を開けば出てくる言葉に、思わず笑みを零す。
「何かあればすぐに連絡するのよ?」
「わかった。ありがと」
こうしていつの間にか時は過ぎていき、気づいた時にはもう、おじいちゃん家の前まで着いてしまっていた。
「……じゃあ白雪、元気でね」
「お母さんもね。それから、お父さんによろしく! じゃあ、行ってきます!」
車から降りた私は、ちょっぴり名残惜しくもお母さんに別れの言葉を告げた。
最初のコメントを投稿しよう!