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「変わらな、い……?」
聞こえてきた言葉に耳を疑った。
え。だって、それって……。
「アンタさ、相変わらずドジだよね」
……っ!
ニヤリと笑った憐くん。
「あの、憐くん。私のこと、わかるの?」
「わかるっていうより、さっき思い出した。そんなドジな奴、一ノ瀬しかいないしね」
「……うぅ」
酷いよ憐くん……。
ってことは、私が教科書を落としてなかったら、思い出してもらえてなかったんだよね?
何か、そう考えると凄く惨め。
それでも。
「ふふっ」
“一ノ瀬”
ずっと聞きたかった懐かしい響きが嬉しすぎて。
たとえ情けない私でも、憐くんの記憶の隅に私が残ってたことが幸せすぎて。
私は思わず笑顔になってしまったんだ。
「どうしたの? 何かいいことでもあった?」
「え、いや」
憐くんの視線の先には、にやけた私の顔。
は、恥ずかしい……。
変な奴だって思われたかな?
私は緩んでしまっている顔を慌てて元に戻す。
と言っても、ちゃんと戻せてるかどうかはわからないけど。
「一ノ瀬って、やっぱ面白いね」
「そ、そんな……」
「じゃあ」
「あっ」
……行ってしまった。
おかえりなさい、って言いたかったのにな。
「またね」
久々に近くで感じた彼の存在。
その余韻に、私は暫くの間浸っていた。
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