雨乞い

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 その村は、夏季にもかかわらず、もう二ヶ月近く雨が降っていなかった。  川は干上がり、田畑は荒れ、井戸水さえも底を突いていた。  村民の水瓶(みずがめ)は尽き、かろうじて残っていた家の水を別けながら村一丸となって節約をしてしのいでいた。  しかしそれでは満足に暮らせる訳もなく、脱水症状を起こして弱い老人子供から次々に死んでいった。  生気を亡くした日照りの村。  ついには村をでる者も現れた。  しかし、良い噂が返ってくることはなく、どこも同じような状況だった。  年貢どころか今日明日の命さえもままならなかった。 「雨乞いすっべ!」  村長が生き残った村民を家に集めて言った。  賛成しかかるもしかし、雨乞いの風習などその村にはなく、具体的に何をすればいいのか誰も分らなかった。  暗雲立ち込める中、村長は続けた。 「心配ねぇ。こんなん気晴らしだ。だけんど気持ちさえ神様に届けられればきぃと叶えてくれる」  それならば、と生き残った村民で考えて、翌朝に田んぼでお経を読むことになった。  翌朝、まだ日が昇り切らないうちに干からびた田んぼに集まり、お経を読む。  30分ほどたった頃、奇跡が起きた。  朝日と共に山間から菩薩が姿を現したのだ。  村長は額を地に付けて叫んだ。 「お願いです! 雨を、雨を降らしてください!」  村民も必死に叫んだ。  菩薩は肯定とも否定ともとれる曖昧な仕草をして、かすんで消えた。  途端、急に空が曇り、ポタポタと雨が降り始めた。  雨は徐々に強くなり、村では歓喜の声が上がった。  川は満ち、田畑は潤い、井戸水は沸き零れた。  雨は、降り注ぐ。  川は氾濫し、田畑は浸かり、海抜は上がり、大地は海に沈み、そして人類は滅んだ。  
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