不幸な笑顔

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今春人たちがいる場所は、特に目印もない平凡な場所。 迎えに来れるのは、小倖が自分の居場所を相手に送ったからだそうだ。 「ねぇねぇ! 小倖さんの好きな人って、どんな人?」 小倖は相変わらず、少し離れた場所にいる。 あまり親密にしているところを見られたくないとのことだが、春人は少し寂しい気持ちを感じていた。 「とてもカッコ良くて素敵な人。 思いやりがあって、ずっと私のことを大事にしてくれるの」 「でも、付き合ってはいないんだよね?」 「うん」 「ずっと大事にしてくれるって、出会ってから長いの?」 夕樹自身、深い意味を持っての質問ではなかったのだろう。 だが小倖から返ってきたのは、驚くべき言葉だった。 「生まれた時からずっと一緒だよ」 そこから連想できるのは家族だった。 だが、家族とは考えられない。 聖も同じように考えたらしい。 「生まれた時から一緒って、どういうことだ? 幼馴染とか?」 「ううん」 「じゃあ、どういう関係?」 「お兄様だけど?」 「「「・・・」」」 小倖は顔を赤らめながら、ハッキリとそう言った。 人は驚くと、言葉を失うというのは本当らしい。 三人はノーリアクションで、石膏像のように固まってしまった。 最初に硬直が解けた夕樹が、恐る恐る尋ねかける。 「好きっていうのは、LIKEっていうこと・・・じゃないよね? LOVE?」 「もちろん、そうだけど」 「ど、どういうところが好きなの?」 小倖は胸の前で手を組むと、うっとりした表情を浮かべて話を続けた。 「全てよ。 撫でてくれる手も、褒めてくれる声も、汗と共に溢れる香りも。 目も鼻も口も髪の毛も、爪の先まで全て愛しているわ」 「「「・・・」」」 三人は小倖のあまりのブラコンさに、再度固まった。 ハッキリいって異常なのだ。 「小倖さんを笑わせたら悪いことが起こるっていう噂、嘘だったのか・・・」 「あ、それね。 私がその噂を流したの」 「え、自ら?」 「うん。 私、お兄様以外の人には興味がないから。 だから誰とも関わらないように、話しかけられないように、わざと悪い噂を流したの」 聖は返ってきた言葉に、脱力したのを隠せなかった。 誰も関わってこないようにと流した噂に反して、自分たちは関りにいってしまったのだと。 「じゃあ、今度は俺が質問! さっき、占いの館へ行っていたよね? その理由は?」 「・・・やっぱり後を付けていたのね」 「あー、あはは。 ごめん・・・」 「まぁ、いいけど」 「占いをしに行ったんだから、お兄さんとのことでも占ってもらったんじゃないのか?」 「あー、そっか。 ちなみに結果は・・・?」 聖の言葉は正しかったようだが、夕樹の疑問を聞くと小倖の顔が見る見るうちに変化していく。 まるで、般若のようだ。 「ふざけんなッ、ふざけんなッ! 私の意中の相手には、既に相手がいるですって・・・! 兄妹なんて、最初から上手くいくはずがないですって。  お金を取っておいて、そんな適当なことを言うだなんて許せない!」 「「「・・・」」」 怖かった、凄く怖かった。 このブラコン具合は、本気の本気であると確信した瞬間だった。
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