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「その次に行った、骨董品売り場は?」
「何かいいものがないかなと思って。 そしたら惚れ薬が置いてあって、これは買うしかないでしょ、と」
「・・・お兄さんのことが、本気で好きなんだな」
「うん! 私、お兄様と結婚するの!」
もう満面の笑みを隠そうともしない。 ブラコン具合は“ヤバい”としかいいようがないのだが、再度その笑顔を見るとやはりとてつもなく可愛かった。
―――といっても、流石にこれは・・・。
聖と夕樹も引いてしまっている。 だが、兄妹である以上付き合えるわけはないし、結婚なんて以ての外。 とするなら、誰かが彼女を正常に戻してあげる必要があるのだ。
本人からしてみれば、ただのお節介だとは思うが。
―――どうやら聖と夕樹も、同じ結論に達したようだな。
二人の顔は、覚悟を決めた顔になっていた。 まだ終わっていないし、諦めてもいない。 そんな時、一行に声がかかる。 小倖の待ち人である“愛しのお兄様”だろうと思い、そちらへ向いた。
「お待たせ」
「お兄様!」
全身から放つオーラで輝いて見える人間が、現実にもいるらしい。 小倖が“お兄様”と呼んだ相手は、まさにそれだった。 サングラスをかけ、マスクをしているというのにだ。
そして、その相手に一番の反応を見せたのは――――夕樹だった。
「え! ちょ、ちょ、待って、え!? ま、まさか!? 光冴様ーーーーーッ!?」
「え、嘘だろ。 本物・・・?」
三人の驚きようを見てなのか、人気アイドルである光冴はサングラスとマスクをチラリと外し、はにかんだ。
「不良たちから妹を守って、道案内をしてくれたんだって?」
「あ、いや、俺たちはそんなに大したことは・・・」
「コイツ、身なりを整えたらそれなりになるのに、何故か地味で友達もいないから心配だったんだ。 だけどこれで安心。 これからも、仲よくしてやってくれ」
目の前にいるのは、テレビでしか見ることのなかった本物のトップアイドル。 小倖はその妹で、そして妹である小倖は兄である光冴を本気で愛している。 その事実に、三人は気圧されていた。
「ちょっと待ってください、お兄様。 彼らはただの、何でもない“クラスメイト”でしかないの。 だから、安心しては駄目!」
「いや、そうは言ってもなぁ・・・」
そう言いながら、光冴は頭を掻いた。 光冴はストーカーまがいの行動をとる妹を更生させるため、忙しい時間の合間を縫ってわざわざやってきたのだ。 かなり一方的な愛情らしい。
だがその事情を知らない春人たちは、密かな会議を行っていた。
「兄妹っていうだけなら望みはあると思ったけど、流石にトップアイドルとなると厳しいな」
「俺は諦めるわ。 流石に付いていけそうにないし、相手が悪い」
「夕樹はどうすんだ?」
尋ねながら夕樹を見ると、彼は光冴を間近で見ながら目をキラキラと輝かせていた。 元々大ファンだから仕方がない。 今は小倖のことよりも、光冴の方が大事なのだろう。
「あぁ、あの美しい光冴様が・・・! こんな近くに・・・ッ!」
「夕樹?」
どこか夕樹の様子がおかしい。 明らかに、ファンとしての羨望といった様子ではなかった。
「俺、やっぱり光冴様が好きだ! 小倖さんはお兄様とお近付きになるために重要かもしれないけど、それだけだ。 あぁ、光冴様、大好きだ・・・!」
もとより、夕樹にはその気があった。 ――――というわけでもないが、男性アイドルは好きなのだ。 もしかしたら、間近で見たことによって完全に火がついてしまったのかもしれない。
「光冴様! 俺、めっちゃ大ファンなんです! サインと握手と、あと、できればチューもしてもらえませんか!?」
夕樹はもう暴走してしまい、光冴もその顔を見ながら明らかに引いていた。
「そんなオチはいらねぇよ!」
春人は、そう言うことしかできなかった。 ちなみにであるが、引きつった笑いを浮かべながらも握手とサインはもらえたようだ。
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