不幸な笑顔

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―――そうか、そういうことだったんだ! 数日経ち、春人が朝食を食べていると事件が起きる。 というより“発覚した”という方が正しいだろうか。 「もしかして、ワンチャンある!?」 急いで朝食を済ませ、いつもより早く登校した。 そして教室へ入ると、いつもの仲間を見るなり叫ぶ。 「夕樹! 聖!」 聖の机の前で、夕樹が机に顔を伏せていた。 その理由が、春人が朝見たニュースだとすぐに分かった。 近付くと夕樹は急に立ち上がり、そのまま抱き着いてくる。 「夕樹、大丈・・・」 「春人ぉー! 俺たちの光冴様が・・・ッ! 俺たちの光冴様がぁぁぁ・・・!」 顔を上げた夕樹は、まるで花粉アレルギーを発症した鼻のように涙を流していた。 今朝のニュースは『小倖の兄でありアイドルの光冴に、熱愛発覚!?』というものだった。  もちろん、光冴とワンチャンだなんて欠片程も思っていない。 妹の小倖のことだ。 「うわ、ガチ泣きじゃん・・・。 “俺たちの”じゃなくて“夕樹の”な。 俺はお兄さんには興味ねぇし」 「ということは、春人もあのニュースを見て思い立った感じ?」 「あぁ。 やっぱり聖もか。 俺も早く出たつもりだったのに、先に来ているなんてズルいぞ!」 「春人だって、俺たちよりも先に来るつもりだったんだろ? やっぱり俺たちライバルだな」 聖が立ち上がったのを見て、春人はその隣に続いた。 「俺は抜け駆けをしようと思ったわけじゃないぞ? だけど結局、最後に選ばれるのは一人のみ」 「え、二人共どこへ行くの・・・?」 「夕樹はここで、思う存分泣いておけ。 俺たちは男に興味がない」 「いや、俺も“光冴様だから”好きなわけで、男好きっていうわけじゃないからねッ!?」 夕樹が何かを言っているがそれを無視し、二人は小倖のもとへと向かった。 だが、彼女はまだ来ていない。 「って、聖! 格好付けて立ち上がったくせに、小倖さんまだ来ていないじゃん!」 「そういうお前だって、何が『俺たちは男に興味がない』だ。 そんなの当り前だし、全然カッコ良い台詞じゃないからな!」 「何をー!」 言い合いが始まろうとしたその時、後ろの扉が勢いよく開き小倖が現れた。 髪で顔が隠れ、表情が全く見えない。 そのまま席に着くと、彼女は机に突っ伏してしまう。 ―――・・・そりゃあ、小倖さんが知らないはずないよな。 ―――やっぱり、止めておくか・・・? ―――・・・いや、ここで引いたら聖に抜け駆けをされるかもしれない! 「対等な立場だ。 春人と俺はスタート地点で並んだ」 「分かった。 いいよ、先に話しかけて」 聖が小さく頷いたのを見て、二人は小倖の席の前まで移動した。 「小倖さん。 大丈夫?」 「・・・」 「なぁ、よかったら今日の放課後、どこかへ一緒に遊びへ行かない?」 「・・・」 「気分転換も必要だと思うよ。 少しでも笑った方がいい」 「そうそう。 小倖さんの気持ち、俺たちにも分かるからさ」 二人は一度、間接的とはいえ小倖にフられている。 だが小倖の情熱は、二人の想像をやはりはるかに超えていたのだ。 小倖は無言で立ち上がると、二人には目もくれず鞄を漁り始めた。 中から現れたのは大量の新聞と雑誌で、それらは全て兄である光冴の熱愛発覚の記事。 流石トップアイドルともなると、その量は半端ではなかった。 「うわ・・・」 「凄・・・」 「くきーーーーーーーーーーー!!!!」 いきなり大きな奇声を発し、小倖はそれをビリビリと破いてまき散らし始めた。 春人と聖ですらドン引きだ。 「あ! いいねぇ、小倖さん。 俺も手伝うよ!」 クラス中もドン引きになろうかという事態に、声を上げたのは夕樹だった。 「うぉりゃあああああぁぁぁぁ!!!!」 「え、えぇ・・・」 二人して破り続け、教室中ぐちゃぐちゃになったところで小倖が言う。 「私、まだ諦めていないから。 お兄様は私の中で永遠の一番なのよ! そう、この世界で、私だけが、お兄様の隣にいることを許されるの!!!!」 「「うわぁ・・・。 やっぱりブラコン過ぎ・・・」」 「俺も絶対に諦めない! あんな報道、信じるもんか! 光冴様の隣にいるのは、俺が一番相応しいんだ! だから、小倖さんの史上最大のライバルは俺だよ!!!!」 「「うわぁ・・・。 アホ過ぎ・・・」」 こうして今日も三人と一人の少女の奇妙な一日は、過ぎ去っていった。                                                                  -END-
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