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帰りのホームルームの間も、春人は小倖を眺めながら色々と考えを巡らせていた。 別に今日一日にこだわる必要もないのだが、日を空けてしまうと何となく気持ちが消えてしまうような気がしたのだ。
―――噂が本当かどうかを確認して、俺たちは学校の有名人になる。
―――そう思ってやってきたけど、今は純粋に笑わせてみたい。
―――だけど、いいアイディアが思い浮かばないんだよなぁ・・・。
ホームルームが終われば、夕樹と聖と一度集まるのが日課となっている。 だが今日は、一人小倖のもとへと歩いた。 夕樹と聖は何かを察したのか、何も言わずにその様子をジッと見つめている。
「小倖さん。 この後、時間あったりする?」
「・・・」
小倖は春人にチラリと目を向けたが、特に返事はない。
「よかったら、四人で一緒に帰りたいなと思って」
「・・・ごめんなさい。 この後、予定があるから」
もちろん、春人たち三人組に小倖を加えた四人だ。 二人とは特に相談もしていなかった。 とにかく時間を稼ぎたいという思いから積極的に動いたのだが、物の見事に断られてしまう。
だが春人からしてみれば、初めて言葉を交わしたということに内心嬉しく思っていた。
「・・・そっか。 それは残念だな」
「・・・」
小倖は会釈だけをして、教室から出ていってしまう。 あわよくばという気持ちもあったが、断られるのは想定内。 重要なのはここからだ。
「よく勇気を出して誘ったねぇ。 まぁ、結果は残念だったけど」
「諦めろ。 元々笑わない女子を笑わせるなんて、無理な話なんだ」
夕樹と聖は呑気に手を振っているが、春人は席に戻ると荷物をまとめ上げた。
「二人共、追いかけるぞ」
「え!? あんまりしつこいと、話もしてくれなくなっちゃうよ?」
「いや、多分春人は『尾行しよう』って言いたいんだろ?」
「あぁ。 流石、聖は俺のことをよく分かってんな」
夕樹と聖も準備を終え、三人は廊下へと飛び出した。 小倖は大分先に行ってしまっていたが、昇降口でその姿を確認する。
「や、やっぱり止めようよ! 尾行なんてしちゃ駄目だって!」
だが夕樹は、まだ決心がつかないようだ。 夕樹としては次の約束も一応取り付けたため、ゆっくり進めていけばいいと考えていた。
「夕樹、次の約束をしたからって思っているだろうけど、期待はすんなよ。 あんなの、社交辞令かもしれないだろ?」
「そ、それはそうかもしれないけどさ・・・」
「男は度胸っていうだろ。 ・・・それに、こういうのは楽しくないか?」
「・・・楽しいけど。 それに気になるし」
「だろ? 今がいく時なんだって」
「心はね? でも、頭がこういう悪いことはしちゃ駄目だって、さっきから警告を出していて・・・」
そう言いながらも、夕樹も靴を履き替えている。 気持ち的には流されているが、まだ引き返せると思っているのかもしれない。
それを悟った春人は、夕樹の煮え切らない態度に少しばかりイライラしていた。
「そんなに嫌なら、夕樹だけでも帰っていいぞ。 聖も、無理はすんなよ」
「別に。 春人だけだと不安だから、俺も付いていってやらないと駄目だろ?」
そう言って聖はニヤリと笑ったが、夕樹はそれを逆に不満に感じたようだった。
「ちょッ、俺を一人仲間外れにする気!? わ、分かった、行くよ! 行くからさぁ・・・。 っていうか、もう大分来ちゃっているけど」
「まッ、こんな面白いことを夕樹が見逃すはずがないって知って・・・。 って、痛ッ! 聖、急に止まってどうしたよ?」
聖の肩にぶつかった鼻を撫でながら、春人は彼の視線の先を追った。 小倖の姿が見えない。
「あれ? 小倖さんは?」
「占いの館へ入った」
聖は細い路地裏の奥にある小さな占いの館を、指差した。 占いの館といっても、外観からハッキリと分かるような造りではなく、看板によってようやく分かる程度のもの。
道端の露天商のように占いをしていたり、テレビ番組で占い師を見たことはあったが、そのような店を見たのは初めてだった。
「こんなところに、占い屋なんてあったんだな。 占い屋には何にも売らないから、知らなかったなー。 はははー」
「・・・春人、さっきのことを引きずっているの?」
「い、いや、そういうわけじゃないんだけど」
特に深い意味があったわけではない駄洒落を、夕樹から突っ込まれ春人は顔を赤らめた。 三人は物陰に隠れながら、入口を注視する。
中はどのような構造になっているのか分からないため、下手に突入するわけにはいかなかったのだ。
「とりあえず、三人が目を離すっていうことはないようにしよう」
「そうだね。 でも普通、女子一人でこんなところに来るかな?」
聖の提案に、夕樹が訝しむように言う。
「女子って、占いとか好きなんじゃねぇの?」
「夕樹が言っているのは、本格的な占いのことだろ。 いくら占いが好きでも、女子一人でこんな路地裏までやってくるなんて、確かに考えにくいな」
「そうかなぁ。 好きならそれくらいするんじゃね?」
「まぁ、分からないけどな。 そもそも俺たちは、小倖さんのことを何も知らないんだから」
三人は不審に思いながらも、小倖の様子を伺い続ける。 尾行は、まだ始まったばかりだった。
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