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三人が両手を使った後出しじゃんけんをして時間を潰し、大体40分程経った頃。 小倖は、占い屋から出てきた。 占ってもらった直後だというのに真剣な表情で、楽しそうな雰囲気ではない。
「何か怒ってる・・・? どんなことを占ってもらったんだろう」
「同学年の女子が占いっていったら、普通は恋占いだと思うけど・・・」
「小倖さんが恋占い? 流石にそれはないでしょー」
彼女の後を付けながら、夕樹と春人は小声で話す。 尾行に熱心なのは聖だけで、二人はのほほんとしていた。
「それ偏見じゃないか? まぁ雑誌の占いならともかくとして、あんな怪し気な店へ行くのは確かに気になるけどさ」
「実は占いだと思っていたのは俺たちだけで、本当は呪いの店だったりして! 今日しつこかった三人が、もう二度と近付いてこれないようにって・・・。 うわぁ、ぶるぶる」
「何を言ってんだ、夕樹。 くだらないことばかり言ってないで、聖を見習おうぜ」
聖は二人共、大して変わらないと思いながら応える。
「どうやら小倖さんは、また変わった店へ行くようだ。 あれは・・・骨董品店か?」
「骨董品店ー!?」
「しーッ! 声が大きいぞ、夕樹!」
「ご、ごめん。 いや、怪し気な呪術具でも買うのかと思っちゃって・・・」
「引きずられ過ぎだろ、全く・・・」
小倖が入っていったのは、狸の信楽焼が表に飾ってある普通の骨董品店だ。 当然ながら、普通の骨董品店に呪術具は売っていない。 というより、どこに売っているのだろう。
「小倖さんって、ヤバイ人なのかな・・・? もしかして、というより、やっぱり俺たちはとんでもない人に、ちょっかいをかけているんじゃ・・・」
「春人が言い出して俺たちを巻き込んだんだろ。 それに確かに変わっているとは思うけど、まだ普通の範疇だと思うぞ」
「それならいいんだけど」
「二人共! 何か買って出てきたよ。 小さいけど何だろう? 鞄にしまって・・・。 あ、どこかへ行くみたいだよ」
「よし、行こう」
「大丈夫かな・・・。 もう止めた方がいいんじゃ」
何故か聖が主導で尾行が行われている。 春人は弱気だし、夕樹は楽しそうであるがどこか他人事だ。 細い路地裏を抜け、しばらく進むと緑の割合が増え始める。
それ程歩いたわけではないが、見える風景はがらりと変わっていた。
「ちょっと待った! 流石にヤバいって! こんな不気味なところ、普通通るか!?」
現代的な住宅地から外れ、築年数が何十といってそうな家が増えている。 時間も時間なだけに、春人の心は赤信号間際の黄色を発していた。
「もしかして、俺たち気付かれてる? 俺たちが、変なところへ誘導されていない・・・? だとしたら、止めた方がいいのかもしれないね」
「有り得る。 よし、危ないことが起こる前に今日はもう撤退しよう」
春人はそう言って、ぐるんと踵を返したがその肩をむんずと掴まれた。
「俺は行く。 なのに、春人が帰るなんて有り得ないよな」
「聖、マジで言ってんの!? 止めた方がいいって!」
「俺も行くよ?」
「夕樹まで!? 何でだよ! お前たち頭が狂っちまったのか!? 今さっき、尾行は止めた方がいいって言っていたじゃないか!」
「さっきはね? まぁでも、ここまで来たら先も気になるのが人間っていうもんじゃない? 好奇心だよ。 春人、もしかして怖いの? ならいいよ、帰っても」
「違ッ、そんなんじゃねぇし!」
春人はぶつぶつ言いながらも、渋々付いていくことにした。 一人なら間違いなく帰っていたのだが、三人いるという安心感も大きかったのかもしれない。
小さな橋を渡り、一行は山間の道を進んでいく。 石階段を上り辿り着いたのは、小さな神社だった。 詳しくは知らないが、どうということのない普通の神社のようだ。
「神社・・・? こんなところに、神社なんかあったのか」
「俺も初めて知ったよ、ここ。 今度はどうして、神社へ来たんだろう?」
「ほら、やっぱりおかしいって! 噂の通り、小倖さんとは関わっちゃいけなかったんだよ!」
聖は冷静に分析し、夕樹はのんびりと辺りを見回し、春人は恐る恐る訴えかけている。
「春人、声が大きい。 気付かれるだろ」
「もう帰ろうぜ! 小倖さんを笑わせるっていう勝負は、もうなし! ここにいちゃ、俺たちも危険なことに巻き込まれる!」
「えー、ここまで来て諦めるの? というか春人、いきなり変わり過ぎだよ。 尾行前は凄く楽しそうにしていたのに」
「そうだよ。 笑わせて有名になるって、あんなに意気込んでいたのに。 これじゃあ、俺たちは明日から三馬鹿としてただの笑われ者になるぞ?」
「そうは言ったってさぁ・・・」
「別に何てことはないただの神社じゃないか。 春人は必要以上に考え過ぎ。 いつもは猪みたいに突っ走っているっていうのに」
「俺だけならいいよ? でも、もしお前たちまで変なことに巻き込まれたら悪いだろ」
「春人、俺たちのことをそこまで考えてくれて・・・!」
夕樹が春人の言葉に感動し、目を輝かせた――――瞬間だった。
「貴方たち、こんなところで何をしているの?」
後ろから声がかかり、振り返った先にいたのは当然小倖だ。 ただ周囲の薄暗さと長い前髪がなかなかの様相を作り上げ、幽霊に見えても不思議ではなかった。
「ぎゃーーーー!」 「うわーーーー!」 「あひーーーー!」
三人は驚き、まるで団子になるよう尻もちをついた。 ちなみに一番下敷きになったのは、冷静に神社を見つめていた聖だ。
「え? あ、えっと、あの、その・・・。 もちろん、神社に来たんだから願い事をしに来たんだ。 今日の晩ご飯が、朝ご飯になりますようにって・・・」
「・・・」
「いや、違うんだ、小倖さん。 春人が言いたいのは、晩ご飯のことじゃなくて・・・」
「そうそう! ハンバーグが食べたいっていう話をしていたんだ!」
「・・・」
小倖は何も言わない。 というより、三人の会話が支離滅裂過ぎて、何を言えばいいのかも分かっていないようだ。
「さ、さて、もう用事は済んだし、俺たちはそろそろ帰るかなー」
「待って」
「・・・な、何?」
「・・・私、ここがどこだか分からないの」
「ッ、はぁ!?」
「誰かに、付けられていると思ったから。 だから逃げるために、適当に道を歩いていて・・・」
春人は唖然としていた。 怪し気な場所へ行く理由が、怪し気な自分たちを撒くためだったのだから。 しかも尾行していたのが春人たちであると気付いていないようで、迷子になっているのだ。
―――・・・小倖さん、可愛いところあるじゃん。
悪印象を抱いていたというわけではないのだが、そのギャップがプラスに作用する。 春人は先程までビビっていたということも忘れ、格好付けるように言った。
「仕方ねぇなー。 じゃあ、一緒に戻ろうか」
「ありがとう」
しかし、しかしだ。 春人たちも、小倖を尾行していただけで知っている道を歩いていたわけではない。 振り返ってみれば、自分の知る景色はどこにもなかった。
「!? え、ここどこ!?」
「え、俺も知らないよ?」
「・・・俺も初めて来た場所だ」
慌てる三人に、小倖が不思議そうに言った。
「願掛けに来たのに、三人共ここがどこだか分からないの・・・?」
「いやいや、そんなわけないじゃないか! な、聖」
「あぁ、もちろん」
三人は円陣を組み、小倖に聞こえないようひそひそと話す。
「おい、携帯は? 俺は学校には持ってこないって、知っているだろ?」
「ごめん、聖。 光冴様の動画を見過ぎて、電池切れちゃったんだ。 春人は?」
「俺の携帯、壊れていて位置情報を取得できないんだよ。 どうすんだ!」
「どうするっていったって、どうにもできないだろ。 既に小倖さんが、怪しみ始めている。 とりあえず、元来た道を辿るしかないだろ」
三人は円陣を解き、春人が堂々と歩き出した。
「さぁ行くよ。 付いておいで、小倖さん!」
「・・・え。 あ、うん」
夕樹と聖も春人に並ぶ。 だが、小倖だけは一人離れた場所を歩いていた。
「あれ、小倖さんどうしたの?」
「・・・何でもない。 ただ、距離をとっていたいから」
「あー、そう・・・。 はぐれんなよ」
少しばかりショックな物言いであったが、深く気にしないことにした。
春人からすれば“今日一日絡んで、少しは打ち解けたか?”という感じであるが、女子一人だとやはり男子三人の中へ入っていくのは難しいだろう。
元々誰かに付けられていると感付いていたのだから、当然とも思える。 ただそうすると、一体どこからどこまでが小倖の用事であったのかも気になった。
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