不幸な笑顔

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三人は当てもなく――――といっても、一応帰る方向を目指している――――歩いていた。 前を春人、小倖の隣に夕樹、後ろは聖と、まるで厳重に護送するかのような配置は、先程の一件を見ての布陣だ。 ただ先刻までとは違い、距離が近く三人の中心に小倖がくるような形のため、会話が弾まない。 「おい夕樹。 何か話題を出せ」 「え? え、俺!? 何で俺なんだよ! 代わりに聖が出してくれよー」 聖は後ろから夕樹の背中をつつき促してみたが、困った顔を浮かべている。 「・・・俺に擦り付けるなよ」 「女子の扱いに慣れているでしょ!」 「嘘を言うな。 夕樹の方が慣れているだろ」 当然、その全ての会話は小倖に筒抜けであるが、当の本人は気にしていない様子だった。 「小倖さん、いい天気だね」 「いや、夕樹。 確かにいい天気だけど、今更それはないだろ」 「は、話の入り方だよ! これから話題を膨らませるつもりだったの!」 「ほう、どうやって?」 「夕樹、頬が膨らんでいるぞ」 三人がわちゃわちゃと話をしていると、携帯の音が鳴った。 「俺かな?」 「俺だろ」 「俺に決まっている!」 だが聖は携帯を持ってきていないし、夕樹は電池が切れているため鳴るはずがない。 更に言うなら、春人のものでもなかった。 小倖は鞄からおもむろに携帯を取り出すと、少し離れ素早く操作する。 ―――こう思っちまうのもあれだけど、連絡する人がいるんだな・・・。 ―――ってかやっぱり最初から、小倖さんに携帯で道案内をしてもらえばよかったんじゃ・・・。 春人がそのようなことを考えていると、小倖はパッと顔を上げた。 そして驚くべきことに、画面に向かって笑っていたのだ。 まるで――――夏を迎えた向日葵が、陽光の煌めきに呼応して花開くように。 「「「!?」」」 初めて正面から、しっかり顔を見た気がした。 それだけでなく、あまりの笑顔の可愛さに三人は目を奪われてしまう。 仲よし三人組である以前に思春期の少年、そして今日一日アプローチをかけた相手。 目だけではなく心まで奪われたのは、自然の流れだったのかもしれない。 「うわ、マジか・・・。 超可愛い・・・。 俺好きになったかも」 「はぁ!? 俺の方が先に小倖さんのことを好きになったし!」 春人が顔を緩めたのを見て、夕樹は再び頬を膨らませた。 もちろん、これは小倖に聞こえない程度に声量を抑えている。   「俺の真似をすんなよ!」 「そっちこそ!」 そんな二人を差し置いて、聖が小倖に近付いた。 「ねぇ、小倖さん。 さっき話していた続きなんだけど、明日の放課後、空いていたりしない? よかったら一緒に」 もちろん二人が、それを聞いて許すはずもなく。 「おいおい聖! 抜け駆けは許さねぇぞ!」 「聖の言ったことはスルーして! 明日は俺と一緒に出かけよう!」 「待てよお前ら! 一番先に誘うのは俺だ!」 本気の喧嘩というわけではないが、揉みくちゃになりまるでダンゴムシの尻相撲のようだった。 そんな三人に向かって、小倖が衝撃の発言を口にする。 「私には好きな人がいて、明日はその人と約束があるから」 「「「・・・ええええぇぇぇ、好きな人!?!?!? 約束ッ!?」」」 三人からすると、小倖が可愛いということを知っている者は自分たちだけで、普段は大人しいというより地味。 人とコミュニケーションは取らないどころか、関わろうともしないという認識だ。 それなのに好きな人がいるという。 それは本来驚くことではないのだが、期待をしていた分ショックも大きかった。 「ちょ、もうフラれたのかよ・・・。 いや、待てよ? もしかして、もう付き合っていたりする?」 「ううん、付き合ってはいないけど・・・」 「ねぇ、それって俺たちの中の誰か・・・。 って、痛いよ、春人」 夕樹が尋ねかけようとしたのを、春人は全力で阻止した。 夕樹が言おうとしたことは分かっている。 どうせ今の状況で自分たちの中の誰かが好かれているはずなんてないため、もう一度改めてフラれに行くなんて自殺行為だと思ったのだ。 そして三人は、円陣を組む。 「チャンスじゃね? まだ俺は諦めねぇぞ」 「俺も諦めてはいないよ。 まぁ小倖さんに好きな人がいたとしても、俺は最初から諦めるつもりはなかったし?」 「今から俺たちはライバルだな。 もう口も利かない」 「うん・・・。 って、そこまでしなくてもいいんじゃね!?」 流石に聖の極端な宣言には驚いたため、春人は緩めるよう促した。 結局、誰が最初に笑わせるか、から、誰が一番最初に好きになってもらえるか、に変わったことで合意した。 「小倖さん、待たせてごめん」 「あ、うん」 小倖は携帯をいじり、視線を向けることはなかったが頷いてくれた。 「行こうか?」 「・・・ごめんなさい。 私はここにいる。 だから三人は、先に帰ってて」 「え? でも」 「さっき言った人が、迎えにきてくれるみたいなの。 だから私は、ここにいる」 「なッ・・・」 『さっき言った人』とは、当然小倖が好きな相手だろう。 もう心ここにあらずといった具合で、付け入る隙もないように思えた。 それでも諦めなかったのは、三人で決意したおかげだったのかもしれない。 ―――宣戦布告だ! ―――その相手だって、小倖さんのことが好きなのか分からないんだ。 ―――だってお互いに好き合っているなら、付き合っているはずなんだから。 どうやら夕樹や聖も同じ気持ちのようで、小倖に向かって言い放っていた。 「俺はまだ諦めないよ。 相手がどんなにイケメンだろうが、絶対に小倖さんをゲットしてみせる!」 「小倖さん、俺たちもここに残るよ。 一人でいたら、また変な奴に絡まれるかもしれない。 心配だから」 「確かにそうね。 ・・・ありがとう」
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