3章

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その言葉が脳内で意味を結ぶのに、多少なりとも時間がかかった。 身体は有限。 それが、培養できる身体の総数に対しての言葉だと理解するためには、いくつかの常識による抵抗を突破する必要があった。 精神のデータ化と、(身体)の半永久的な生産能力。 このふたつの要素が合わさって、初めて"不死"が実現するというのに。 たった今、そのうちの一方が音を立てて崩れ去った。 余命宣告を受けたような、楽園から地獄へ突き落とされたような。 そんな感情の揺れが、じわりと全身を伝っていく。 「身体は一対のDNAサンプルを元に培養される。 サンプル自体は汚染前にNASAが極秘裏に集積しておった優秀な人間のDNAサンプル200万個が使用されておるのじゃ。 人体培養に流用できる強度の遺伝子を人工的に作り出すことは、今のテクノロジーでは難しくての」 「これだけの科学技術を持っていながら、ですか?」 「残念ながらそうじゃ。 しかもそのサンプル、培養に使う度に劣化していく。 同じサンプルでは2度が限界、つまりわしらが使える身体はたったの400万体だけ」 続く言葉は、なにも出なかった。 スケールが大きすぎるどころの話ではない。 培養工場で日々造られている身体は、オリジナルではなかった。 過去に生きていた人間の、200万のDNAの中から無造作に選ばれたサンプルを元に製造されていた。 今俺が"着ている"身体は、そのうちのひとり。 地球上に確かに生を受けた他人の、身体。 胃のあたりから、何かがせり上がってくる感覚。 この不快感も、他人の身体の中で起こっているのかと思うと余計気持ちが悪くなった。
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