3章

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「分かりました、確か……『カステルム』じゃありませんでしたっけ?」 反対側の方の席で誰かが答えた。 この小隊の戦闘力の高さは、少なからず兵員の高水準の頭脳に支えられていると言っていい。 先月討伐したビーストの名前を覚えている人間がいたところで何ら不思議ではない。 「お見事、その通りです。 先月3日に我が小隊が討伐し新種として認定された『カステルム』が、このビースト(テンプルム)の原種となります」 スクリーンの方へ手をやり、聴衆の視線を誘導するイコルギア。 今度はスクリーンが2体の巨大ヤドカリの画像に切り替わる。 左のものは初めに新種として説明されていた『テンプルム』。 左は恐らく、今話題に上がっている"原種"の画像だろう。 「原種より40センチも厚い外殻と2倍の体格を有する当該ビーストは、単なる"個体差"の一言では片付けられない。 これはれっきとした進化です」 イコルギアはスクリーンの逆側までゆっくりと移動し、『テンプルム』の画像が表示されている箇所を(てのひら)で叩いた。 「しかし、恐ろしいのはその進化スピードです。 『カステルム』から『テンプルム』までの進化に要した時間はたったの1ヶ月。 普通進化というものは何百年とかけて成されるものであり、この進化速度は異常の一言に尽きる」 右側のヤドカリとは比べ物にならないほど大きく(いかめ)しい外殻を有した『テンプルム』を指すイコルギア戦術参謀の腕に、無意識に視線をやる。 心無しか、彼の手は震えていた。 スクリーン上の画像が、再び初めの4体の新種ビーストのものへと戻る。 「11日に討伐したコードネーム『アトス』も、『テンプルム』と同じような事例です。 『ズイカク』『ショウカク』に至っては原種すら特定できていない正真正銘の新種だ」 危機感が伝染しどよめきが大きくなる。 「我々が劣化ウラン弾の安定生産に成功した時、奴らの中には、いかなる銃弾も通さない強硬な甲殻を持つものが現れだした。 我々が小型ジェットパックの開発を成し遂げた時、奴らの一部は音速で飛行し始めた」 若干の疲れが見え隠れするイコルギアは、最後にこう締めくくった。 「奴らの進化速度は、我々の科学力に勝るとも劣らないのです」
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