3章

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実戦に(おもむ)く俺たちとは違い、データとしてのビーストと対峙する随伴参謀という仕事だからこそ。 イコルギア参謀が、第85小隊が、人類が、確実に追い詰められていることがよく分かるのだろう。 昔より敵がデカくなった気がするな、ではなく、敵の体格が前年比何パーセント増加しました、という風に。 最近自分はすぐ死んでいるかも、ではなく、生存時間の平均が何秒減少しました、という風に。 下手な直感ではなく具体的な文字や数値として、ビーストの進化が壁となって、戦闘毎に自身に向かって迫ってくるのがよく分かるのだろう。 故に、彼は疲弊していた。 四方を囲み込む壁を兵士が可視化できるように、敵に着実に追い詰められているこの現状をデータとしてさらけだす。 人類は決して優勢ではないのだと、納得させる。 参謀という仕事は、俺たち兵士の想像以上に精神をすり減らすものなのかもしれない。 「しかし、こちらも敵の進化に対応するため、あらゆる新兵器の研究・開発を行っています」 初めからずっと表情を大きく崩さない彼。 しかし声色に出る感情は抑制し切れていないようで、声が少しうわずる。 「皆さんには、先月説明した戦闘方法を継続していただきたい。 すなわち、頭部等の急所への火力の集中です」 既に見飽きた巨大ヤドカリの画像がスクリーン上から消え、今度は複数のグラフが表示された。 「急所を集中的に攻撃するという戦術は、今月も一定程度の成果を上げています。 ですが我々参謀は、これ以上のものを期待できると思っています」 (それ、やめた方が良くね?)
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