3章

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死ぬ寸前まで俺を追い詰めたあの声が、唐突に顔を出す。 奴の存在を完璧に忘れることができていたこの夢のような時間が、終わりを告げる。 そして、完璧に忘れていたが故に。 「なっ!?」 唐突に脳内に響いた声に驚き、不覚にも声を出してしまった。 壇上で話し続けていた参謀が、こちらをギロリと睨む。 「おいアッシュ、どうしたのさ」 隣でミトモが声を落として聞いてきた。 「いや、何でもない」 「お前、ただでさえあの参謀に嫌われてんだから、ブリーフィング中は静かにしときなよ」 「分かってる、すまん」 Dr.テスティモの診断を受け、この声の正体が判明するまでは、まだ他人に知られたくない。 それにイコルギア参謀という人間は、話が自分の意図に関係なく途切れることを酷く嫌う。 人の心を持っていないように見えて、実はプライドが高いのだ。 冷徹な視線を送る彼に向かって軽く会釈をし、話を続けるよう促す。 あからさまに不機嫌な表情を作ったあと、彼は新たに表示されていたデータの説明に戻った。 思わずため息をひとつ。 隣のミトモが彼の話を聞くことに再び集中し始めたのを横目で確認し、極限まで落とした声で呟く。 「黙れと、言っただろうが」 (ごめーん! いや俺も言おうか迷ったんだけどさ! さすがに間違ってることは言ってあげた方がいいかなって) 声は、心底すまなそうに言った。
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