3章

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「で? 頭ん中で人間の声が聞こえるじゃと?」 若々しい体つきのDr.テスティモは、絶対に痛くないであろう腰を大袈裟にさすりながら言った。 清潔感漂うカウンセリングルームで困り果てる兵士と、腰をさするカウンセラー兼医者。 この病院では決して珍しくない光景だが、今ここで取り扱われている症状に前例はない。 「自身が声に出して語りかけないと相手には伝わらない、五感は共有している、自分と性格が真逆、昔の出来事を知っている……なんなんじゃこの癖の強い症状は」 母艦内の名医と謳われる彼の顔が珍しく曇る。 「症状だけ聞くと、メンタルケア不足から来る解離性同一性障害……に近いような気もするがの」 「多重人格ということ、ですか」 「そうじゃ。 だが、なんとなくではあるんじゃが、そんな単純な症状として扱ってはいけない気もするんじゃ」 Dr.テスティモは、短く整えられた顎髭を触りながら言った。 暫し無言で考え込む彼。 (俺はお前のもうひとつの人格でもなんでもないっつーの) 先程から脳内で不満を繰り返す前代未聞の症例野郎を例によってずっと無視していると、さすがに大人しく黙ってしまった。 とは言え、自分の第2の人格が、自らを第2の人格ではないと否定するだろうか。 と、Dr.テスティモが顔を上げた。 「考えていても仕方ない。 とりあえずCPUの検査でもしてみるかの」 「はい」 俺の返事を聞くと、彼は部屋の奥にある白い扉の先に消え、片手にごちゃごちゃとした機械を持って戻ってきた。 いつもカウンセリングの時に使うような、頭に被せるタイプの装置だが、こちらは一回り大きい。 いつも、と言えるほど定期的にカウンセリングを受けているわけでもないが。
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