3章

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「ちと大人しくしとれ」 ひんやりと冷たいものが頭を包み込む。 Dr.テスティモが思考操作によって装置を起動させると、作業開始を知らせるごく小さな電子音が耳をくすぐった。 「2分後に結果が出るでの。 ゆっくり深呼吸しながらしばしそのままの格好で待っとれ。」 彼は診察用の椅子に座り、症状の子細がメモされたデバイスをじっと見つめたまま黙りこむ。 聞こえるのは規則的な電子音と、室内に流れる流行りの音楽のピアノカヴァーだけ。 そんなゆったりとした短い時間の後、彼がおもむろに椅子から立ち上がった。 恐らくは作業終了の通知が脳内に届いたのだろう。 彼は慣れた手つきで装置を頭から取ると、この部屋と奥のスタッフルームを繋いでいるであろう白い扉に再び手をかけた。 そこで振り返り、椅子に座って待つように言うと、彼はドアの向こうに消えた。 (ねえなにあれ! もしかして俺を殺す装置? アッシュいつから敵になったの!?) すかさず脳内に響き渡る声。 どうやら、俺が一人でいられる時間は永久に訪れないらしい。 「ずっと敵だクソ野郎」 Dr.テスティモがまだ戻って来ないのを確認し、精一杯の敵意を見せつけてやる。 (いやいや俺れっきとした味方じゃん! 戦いのアドバイスだってしたじゃん!) 「うるさいな」 (こんなどこの誰かも分からない人間を問答無用で敵呼ばわりなんて、ひどいやつだ!) 「どこの誰かも分からないから敵なんだよ。 ていうかお前はそもそも人間なのか? 自分の正体くらい自分で分かれよ……」 (なっ……確かに俺、自分が誰だか分かんないわ) 痛いところを突かれたのか、威嚇する子犬に似た唸り声を最後に、奴は再び萎縮してしまう。 ブリーフィングで戦術論を展開していた時は意外にも頭の切れるタイプかと思ったが、所詮は幼稚で未熟な考え方の持ち主だったようだ。 数分後、ドアが開き、タブレット端末を片手にDr.テスティモが戻ってきた。 小難しい表情を顔面に張りつけた彼。 症例を特定するのが相当難しかったのか、それとも当事者に言いにくいほどの重症だったのか。 何を言われても驚かないよう心積りはしていたつもりだったが、さすがに彼があの様子だと不安を禁じ得ない。
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