3章

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「診断結果は出た。 原因もおそらくわしの推察通りじゃろう。 じゃがアッシュ、この症状の説明をするには、少々法的な問題があるんじゃ」 「法的……ですか?」 法律が絡んでくるのか? このうるさいクソ野郎の存在に? ただいつも通り死んで、いつも通り身体を換えただけなのに。 事態の複雑化は留まるところを知らない。 思わず天を仰ぐ。 「おぬしの症状には、最重要機密の一端が絡んでくるのじゃ。 政府の幹部、軍の幹部、厳正な心理検査をパスした研究者、医療関係者だけが知る機密がな。 もちろん、漏らしたことがバレれば職を失い、100年単位の懲役刑が待っておる」 「じゃあ俺には言えないってことですか?」 政府、最重要機密、心理検査、懲役刑。 聞きたくもない言葉が芋づる式にドクターの口から溢れ出てくる。 ここに来たら何かが分かると信じて疑わなかった数分前の自分を1発殴りたい。 分かったのは、奴の正体は幾重にも張り巡らされた法律の壁に守られているということのみ。 ふざけるなど、そう思っていた。 「まあ落ち着けアッシュ」 少し考え込んでいた彼が、おもむろに口を開いた。 「わしも医者の端くれじゃ、患者に正しいことを伝える義務がある。 もしわしが捕まったら毎日面会に来て話し相手になるんじゃぞ、よいな」 柔和な笑みを浮かべたドクター。 その笑顔の裏には、確かに決意のようなものがあった。 患者のために命を張ることができる、そんな(おとこ)が目の前にいる。 真の医者が、目の前にいる。 「分かりました」 口下手な自分が発することができる精一杯の感謝を乗せて頷く。 「よろしい。 ところでアッシュ、身体の培養法は知っておるか?」 「え、いや。 でも、日毎に400体程度の安定生産が確立されていることは知ってます」 一呼吸の間。 ドクターは顔を近づけ、限りなく小さな、それでいて芯のある声で、こう言った。 「この母艦で培養できる身体の総数は、有限じゃ」
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