3章

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「日毎の死亡者数、身体の消費数から考えて、30年後には使える身体は無くなる計算じゃ。 それまでに地球の浄化が終わらなければゲームオーバー、人類は負ける」 それからドクターは、彼自身が内に溜め込んでいた機密の一切を聞かせてくれた。 現在の浄化装置の稼働率を維持しても、現状は厳しい戦いであること。 パニックや暴動を防ぐため、一連の情報は一般人には行き渡っていないこと。 研究所のトップが、サンプルの劣化を引き起こさない培養法やDNAの人口製造法を、水面下で開発中であること。 いずれも、進捗は芳しくないこと。 「あちゃ、ここまで言う必要はなかったわい。 自分ひとりが抱えていくには重すぎる情報だったもんで、ついな」 ドクターは椅子に深く座り直した。 唐突に提示された人類敗北までのタイムリミットよりも、大半の人間がこんな重大な情報を知らないまま生活しているという事実が怖かった。 「ちと脱線しすぎたわい。 おぬしの症状に話を戻そう」 いや、冷静に考えて脱線どころの話ではない。 全ての情報を未だに噛み砕くことができていない俺のことなんかお構い無しに、ドクターは1枚の画像を空間上に投影した。 恐らくは、MRIによる俺の頭蓋の画像。 「生きた人間のDNAサンプルを使うがゆえ、本来ならば脳も一緒に発生してしまう。 じゃから脳の発生に関わるゲノムを切除し、成長後、空の頭蓋骨にCPUを入れるという作業が人工身体の製造には必要なのじゃ。 じゃが、アッシュの身体には……」 写真の後頭部が拡大された。 完璧な球状のCPUの影の、すぐ隣。 不恰好で雑然とした形のなにかが、頭蓋内部の余ったスペースを満たしていた。 人工物ではない。 なにかの臓器?内臓脂肪?腫瘍? ドクターに例の機密事項を聞かされなければ、素人目にはこの物体がなんなのかすぐ分からなかっただろう。 「別の人間の脳、ですよね」 ほんの一瞬、頭がヒリヒリと痛んだ。
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