3章

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「そう、サンプルの採取元の人間の脳じゃ。 ゲノム編集が上手くいかず、脳が発生してしもうたようじゃの」 CPUと頭蓋の間の空間を占める気味の悪い影が、この身体の正当な所有者。 あいつにとって俺は、ただ無許可で宿を借た迷惑客同然の存在だったらしい。 「機械脳の記憶域付近に伸びるニューロンを確認した。 細胞分裂した痕跡も残っておる。 つまりこの脳は現在進行形で発育しているということじゃ」 「記憶域って……俺の記憶は大丈夫なんですか?」 「画像を見る限り、記憶の共有くらいはできそうじゃの」 繋がった。 教えてもいないのに知っていた俺の名前。 突然歌い出した、昔俺が好きだった歌。 大学で習った生物の習性。 奇妙な悪夢。 俺の記憶がこいつに吸い取られていたと仮定すれば、全ての出来事の辻褄が合う。 理解すると同時に、新たに、そして急速に浮上する問題点。 「俺の身体は乗っ取られませんよね?」 ドクターはしばしの間を置いて答えた。 「可能性はゼロだとは言いきれん」 「嘘でしょ……」 「声が聞こえ始めてから記憶を共有する神経回路の発生まで1日程度しかかからなかったことから考えるに、今後同程度のスピードでこやつが成長すれば、数日後には運動神経まで乗っ取られていても不思議ではない」 「俺はどうすれば」 「この身体を捨てるのがいちばん手っ取り早いじゃろうな。 戦闘で身体を失ってくれば研究者連中の実験台になることもない」 「ドクターは俺の症状を上に報告したり、研究材料に使ったりしないんですか」 「今後の参考にしたいのは山々だが、アッシュはそういうの苦手じゃろ? 今回だけは黙っちょるわい」
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