3章

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収穫は予想以上。 症状(謎の声)の正体だけでなく、具体的な特効薬も分かった。 すなわち、死ねばいい。 身体を交換してしまえばいい。 許可証を渡して兵士用の身体交換施設で換えてもらうという方法もあるが、リンク率を含めた健康状態が良すぎてどう見ても身体を換える必要がないため、怪しまれるとのこと。 安全に──と言うのもちゃんちゃらおかしいが──戦闘で身体を失ってくるのが1番手っ取り早いそうだ。 (俺を殺すってのか!) 先程から当の処置に反対する声が脳内でわんわん鳴り響いているが、無視を決め込む。 頭の中に、脳がもうひとつ。 謎の声は幻聴でも精神疾患でもなく、紛れもないひとつの精神であり、ひとりの人間のものだった。 この艦では珍しい、有限の寿命を有する存在。 こいつは生身の人間だ。 ということは、俺が身体を失えば殺人と見なされるのだろうか。 頭の中の脳はれっきとしたひとつの人命としてカウントされるのだろうか。 俺の中枢機能が乗っ取られた場合は? あの脳はこの身体を奪ったあと、アッシュ=アレキサンダーとして生きていくのだろうか。 そうなったら何をしたいんだろう。 こいつは、何を望んでいるのだろう。 今日のカウンセリングによって、いくつかの謎が解明された。 だが、それ以上に分からないことが増えた。 今は、一刻も早く次の任務が来るのを祈ることしかできない。 と、ポケットから身体を伝う微振動。 煩わしい声が困惑したように黙り込む。 代わりに、脳内に携帯端末のメッセージアプリの通知音が響いた。 ぶっきらぼうに端末を取り出す。 『サラ さんがメッセージを取り消しました』 空間上に投影されたホーム画面には、ひとつの通知だけが寂しげに浮遊していた。
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