4章

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核ミサイルを地球上にばらまいた愚かな人間によってつくりだされた、新たな気象現象。 死嵐。 ガンマ線を始めとした粒子線が気流に乗って集積され、高層大気を通過する際に継続的に生じる電磁パルスの嵐。 電子回路に致命的なダメージを与える死嵐に対抗するため、人類はあらゆる機器にパルス対策を講じてきた。 が、レーダーサイトや軌道偵察衛星からの大容量の情報伝達は、未だにパルスの影響を受ける。 そう、大容量の情報伝達は阻害されるのだ。 母艦に送信される最も大きな情報は、レーダーサイトからの立体空間データでも、衛星からの地上写真でもない。 数百テラバイトの情報。 人間を構成するデジタルデータ。 人類の不死を成立させる、0と1の羅列。 すなわち、人間の精神。 ハッキング、ジャミング、そしてもちろんパルスに対して、脳内CPUの安全性は向上の一途をたどってきた。 それでも、自動ログアウトによって特大のデータを宇宙へ飛ばす複雑な回路は、他所に比べて圧倒的に脆弱。 パルスによる強力なサージ電流は、回路の信頼性を極限まで削って取り付けたシールドを易々と貫通する。 死嵐の発生域で死ねばログアウト機能は働かない。 生命維持機能を失った誰のものかも分からない身体と一緒に、無惨に果てるのみ。 死の名を冠するこの嵐は、不死身の兵士の命を容易に奪っていく。 身震いをひとつ。 発生域付近での戦闘は幾度となく行ってきた。 が、明確な死の危険にさらされるこの恐怖には、経験と慣れでは決して太刀打ちできない。
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