4章

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「数日前からの断続的な死嵐の発生によって、地表のレーダー群が機能しなくなっている。 環境は非常に不安定、周辺のビーストの動向も掴めていない。 ゆえに、他のビーストの急襲から車両を守る必要がある」 担当官は、護衛を設けた理由を簡潔に早口でまくしたてた。 「予報では、戦域での死嵐の発生予想時刻は31時間後。 作戦の立案時には3日後という予報だったが、不安定な気流のせいで目測を見誤った。 よって、作戦開始は20時間後とする」 なるほど、だから緊急と。 2日分も予想を外すなんて、気象部門の連中はお遊びでもやっているのか。 ただまあ、俺にとっては嬉しい誤算。 くそ煩い脳内の声に耐えなければならない時間が、3分の1程度に短縮されただけのこと。 適当に戦って、頃合いを見て死に、死嵐の発生前に討伐し終えれば、万事解決。 担当官がブリーフィングの終了を告げる声が、頭の片隅で響いた。 いつの間にか終了していた作戦の概要説明。 別に聴き逃していいと思った。 ビーストを倒すことも、自動浄化装置を守ることも、さして重要なことではない。 死ぬことができればいいんだ。 この5年間、幾度となくそうしてきたように。 (明日は初めての戦闘かー! あ、俺にとってのな) この声もあと1日で聞こえなくなると思えば、子鳥のさえずり程度にしか聞こえない。 なんとなく、全てが上手くいく気がした。 明日の戦闘を境に、緩やかに下降し続けていた俺の人生が、一気に上がっていく気がした。
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