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絶叫する私
「元気でね。」「良いお知らせを待ってるわ。」
日曜日のお昼過ぎ、寮の管理人おばさんや会社の同僚の女の子が見送ってくれた。
独身寮を後にして、私はシャアハウスに向かった。
少し寂しい気がしたけど、会社は変わるわけがないんだからと自分に言い聞かせる。
年頃の女の子にしては荷物が少ないと、中年の引っ越し屋さんは驚いていたが、余計なお世話だよ。
武道家たるもの、質実剛健。
実際、私はトラックの助手席に乗せてもらえる、ラッキーだもんね。
同居人は留守らしく、挨拶もできぬまま引っ越し屋さんに荷物を私の部屋に運び込んでもらった。
後は、私の出番。
引っ越し屋さんにお金を払い、丁寧にお礼を言った。
「毎度ありがとうございます。今後とも、宜しくお願いします。」
引っ越し屋さんは、愛想良く去って行った。
「さてと、荷物をさばくとするか。」
まず、壁に愛しのアンディ様のポスターを張った。
独身寮では壁に貼ることができず、クローゼットの扉の裏側に貼っていたもんだから、凄く嬉しい。
作業も、はかどるというものよ。
私は、アンディ様が入場曲によく使っていた伝説のグループ、クイーンの「ウイ・ウイル・ロック・ユー」のCDをかけ、BGMにして、ノリノリで作業に取り組んだ。
我ながら、集中力は凄い。思ったより、早く片付いた。
後は、共同で使用する台所とリビングだ。
同居人の許しを得ず、勝手に置くのはいくら私でもできない。
帰りを待つことにしたが、何もせず時間をつぶすのはもったいないので、近くのコンビニまで晩御飯と明日の朝ご飯と缶ビールを買いに出かけた。コンビニから帰ったが、まだ同居人の姿は見えなかった。
「まあっ、いいか。」
私は、コンビニのノリ弁当を缶ビール片手にやりだした。
昨日の夜遅くまでの荷物の詰め込みをしたせいもあり、酔いがいつもよりよくまわる。
ノリ弁当をきれいにたいらげ、缶ビール2本を飲み干したころ、どうやらウトウトしてしまったらしい。
気が付くと、見知らぬ男の顔がすぐそばにあった。
「キャー、痴漢。」
私は、缶ビールを投げつけたが、その男はパシッと受け止めた。
「こんちくしょう。」
私は左の突きをフェイントに右の正拳突きを顔面めがけて繰り出したが、ヒラリとかわされた。
『こいつ、できる。』
今まで試合で多くの敵を沈めてきた必殺技をここまで見事にかわした者はいなかった。
私は気合を入れ、アンディ様お得意のかかと落としをお見舞いしようとしたところで、その男から「待った。」がかかった。
「同居人への挨拶が、 それかい。」
「同居人・・・・、えっ~、男。」
私は、絶叫した。
断っておくが、遊園地のジェットコースターなどで絶叫したことはない。大笑いする方である。
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