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僕は花火が大嫌いだった。
だけれども反面好きでもあったんだ。
僕は大きな音が大嫌いだった。
梅雨に大地を裂くように鳴り響く雷。
冬に行われるどんど焼きで爆発する竹の音。
そして、夏に鳴り響く花火の音。
それらの音が鳴ると、僕はどうしようもなく恐ろしくなって部屋の隅で震えるのだ。
そんな反面、好きでもあったんだ。
大きな音のならない手持ち花火というやつだ。
大きな音と同じくらい火も嫌いだった僕は、ただ眺めているだけだったけれど。
夏の夜になると庭でそれは始まる。
兄弟たちが手に花火を持ってはしゃぎまわる。
一番上の兄貴が花火を大きく振り回し、周りに飛び散る小さな火の粉が、自分やほかの兄弟にあたってしまうのではないかと毎度ひやひやさせられる。
その度に彼女が怒るのだ。
この家の長女であり、僕たち兄弟とは大きく年が離れている。
「一緒に遊ばなくていいの?」
火が嫌いだと知っているはずなのにいつもこの質問を僕に投げかけてくるのだ。
僕は、またこの質問か…と嫌な顔をすると、「ごめんごめん。」そう言って頭をなでてくる。
「子ども扱いするなよ…。」
そう反論しても、彼女はただただ微笑むだけだ。
「花火、きれいね。」
そうつぶやく彼女の横顔はきれいだけれど、すぐに壊れてしまいそうでいつも不安になる。
僕は花火が大嫌いだけれど、彼女と僕を引き合わせたのも花火だった。
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