3人が本棚に入れています
本棚に追加
してやられた。
この狡猾狸じじいめ。
「中にはなんて書いてある?」
「えっ?」
じじいはさらに促してくる。
「読んでみい」
「でもここじゃあ―」
「いいから早くっ!」
「……」
渋々ながら僕はこの場で手紙を開封し、マユコちゃんからの手記を拝見した。
”本当に突然でごめんなさい。驚いたよね?
でも、どうしても伝えたいことが”
「なんて書いてる?」
じいちゃんはそう横から口を挟んでくるので気が散り「なんでもないよ!」と顔を上げて注意すれば、その顔はもうにやけていなかった。
僕は紙面に目を戻す。
”私は高橋雄太君が好きです。”
その一文が目に入ったとき、えっ?僕は一瞬、いや二瞬、三瞬、とにかく時間が止まったように感じた。
止まったのは心臓?なんて思えばドク、ドク、ドクン、ドクンなんて生命の鼓動が今度やかましいくらいに感じ始めて頭がぽぉっとして顔が赤らむのを感じた。
「どうだ?」
じいちゃんの声に返事せず、僕はその先に目をやった。
”本当に突然でごめんなさい。
それでも私は、正直にこの気持ちを知ってほしくてこの手紙を書きました。”
そこまで読むと僕の顔が今度、ニヤついてきていた。
”もし私の告白を受け入れてくれるのなら、明日の10時に駅前にあるイルカ像のところに来てください。
私は高橋君とデートがしたいです!
だから、駅前で待っています。
鏡マユコ”
「なんて書いてあった?」
震える手で手紙をたたみ、ようやく顔を上げてじいちゃんのほうを見る。
僕は頷くことで答える。のぼせてニヤけるのを堪えるのも限界に近かった。
「やったーっ!!」
「おめでとう孫よ!!これで曾じいさんになる日も近いのお」「何いってんだよじいちゃん!」「これは早計だったか」「「はっはっはっは」」
なんてほのぼの展開を期待していた僕に、次に見せたじいちゃんの大きなため息は意外であって心外。
「やっぱりか」
じいちゃんは吐き捨てるようにそう言い、「えっ?」となる僕に対して「これはいったいどんな因果かのぉ」と次には独りでに呟いた。
なにやら勘違いしているようだ。
「あ、あの、じいちゃん、手紙の内容だけど」
告白だったよ!
そう言おうとした手前、
「告白、だったんか?」
「えっ?」
「バレバレだ」
「そ、そう。わかってるならなんで落ち込んでるの?祝福してくれたって―」
「それはできん相談だ」
「は?なんで?」
じいちゃんは床に向けかけた視線を僕のほうに向けて僕の目を見据え、
「鏡マユコは爆弾だ」
そうはっきりと言った。
最初のコメントを投稿しよう!