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そこは、大地を遥か彼方に見る、ただの岩場と呼んでもおかしくない、小さな島だった。植物が生息するでもなく、潮水に洗われ、海草以外何も育たないような。
「何もないから誰も来ないし――。一人になりたい時に、時々、来るの。皆も、私がここに来るときは一人になりたい時だと知っているから、ついて来ない。だから、あなたもここまで運んだ。その翼が飛べるものであれ、飛べないものであれ、誰かに見つかったら、ただでは済まないわ」
「……なら、俺は、神に守られてる、ってことかな」
眩しい光に目を細めながら、カザハヤは言った。
「神? あなたは信仰を持つ種族なの?」
セイレアの驚きは尤もだった。
信仰を持つ種族は極少数で、彼らは神の姿と同じ自らの姿を獣姿などに変えたりはしない。それは、神を畏れぬ罪深き所業だ。
「信仰なんて判らない。でも、そこに行かなくてはならないんだ。神のいないこの大陸ではなく、神の降りて在る別の大陸に。――海人なら、他の大陸のことも知ってるだろ?俺に教えてくれないか、セイレア」
カザハヤは、逸る気持ちをそのままに言った。
しかし――。
「……誰も知らないわ」
申し訳なさそうに、セイレアは言った。
「なぜ――」
「この先にも海は続いている。でも、誰もその先には進めない。私も確かめたわ。あるところまでは行けても、その先に進もうとすると、いつの間にか、陸に向かって戻っている。私たちは、この大陸に閉じ込められているのよ。……きっと、神を畏れぬ所業のために」
「まさか! この国に神はいない!」
カザハヤは、納得できずに声を荒げ、
「それに、戦が酷くなる前は、海の向こうの国とも交易していたはずだ」
「年寄りも昔語りでしか知らない過去の話ね。それこそ、重い金属が重油を糧に空を行き交っていたという時代の……」
長引く戦で鉱物資源も燃料資源も尽きたこの大陸は、それでも戦いをやめず、最後の兵器を使ったという。そして時代が変わり、人間を獣と組み合わせ、それを武器に戦い始めた。技術は進み、それぞれの気候や土地に適した姿を手に入れ、さらに強く、さらに俊敏に……。
今でも昔の遺物のような武器が稀に出土し、使われることもあるが、もう、今それを造り出すことは不可能と言われている。今、必要なのは、自分で考えて行動できる武器なのだ。
もちろん、それに異を唱え、変わらない姿のまま、戦を善しとしない種族もいた。
しかし彼らは衰退し、もう少数民族とすら呼べない数になっている。ある話では、戦を逃れて地下にもぐり、暗闇で過ごす内に視力が衰え、地上に出ると光で目を焼かれるため、もう地下でしか暮らせない種族になっていると。
「でも……、もし、あなたの翼がこの大陸を出るためのものなら、それならきっと、海を越えることも不可能ではないのかも知れない」
セイレアが言った。
今まで誰も成すことが出来なかった、自由な空への飛翔。もし、カザハヤの翼がそのためのものなら。
「やってみるよ」
カザハヤは言った。そして、鷹の翼を大きく広げた。まだ傷は完治していないが、飛びたい気持ちで溢れていた。
しかし、セイレアの手が、それを止めた。
「セイレア?」
自分の手を握るセイレアの手に、カザハヤは訊いた。
「飛ぶ元気があるのなら、まずは食事をとりなさい」
海の色と同じ、魅力的な色の瞳が、せっかちな子をなだめるように、いたずらっぽく笑った。
クゥ、とおなかが鳴ったのは、空腹を思い出した途端のことだった。
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