幸を掴む

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僕は毎日幸せだけど、レコさんはそうじゃないかもしれないと感じたのは、生活が落ち着いて、僕に周りを見る余裕が出来たからかもしれない。引き取られた最初の頃は、新しい環境が余りにも幸せ過ぎて、僕は自分に与えられた甘美な幸福を貪る事しかしていなかった。だから、気付いていなかった。僕もご主人様も周囲から馬鹿にされている事に。 ある日、急に散歩中に周囲の罵詈雑言が聞こえてくる様になった。 「何あの犬。耳が気持ち悪い」 「あの有名な不潔なペットショップで買ってきたらしいわよ」 「うへー、汚ならしい。何でそんなとこで…」 「レコさんも変な人だから…。こんな田舎で毎日オシャレして…。うちらみたいにジャージで過ごせば良いのに」 「田舎の女はそれで良いのにね。自分を着飾って男でも漁りたいんじゃね?」 「うわー…レコさんも汚い女!」 僕はムカついて、道端で話し込む女達にワンワン!!と強く吠えた。レコさんは、そんな女じゃない!オシャレで優しい、強い女性だ!! 女達は驚いて、何よもう…とそそくさとその場を去った。 「サチオ、今のはダメ!むやみに人に吠えちゃダメ!」 レコさんはその場で僕を叱った。どうして?僕はレコさんを守りたかっただけなのに…。 「悪口に吠え返したらダメなの。辛くても耐えて。約束して。今まで吠えなかったのに、どうして急に?」 僕は納得いかなかったが、レコさんの為に頷いた。レコさんが言うなら仕方ない。 しかし、その後も周囲の罵詈雑言は続いた。 バカ女。汚い犬。ヤリマ。欠陥犬。男好き…。どうして気付かなかったんだろう。僕達は散歩の度にこんな事を言われてたのに。 散歩が楽しすぎて、僕は今まで気付かないでいたんだ…。
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