幸を掴む

7/9

0人が本棚に入れています
本棚に追加
/9ページ
僕達が住んでいる町は、民度が低いんだなと気付いた。だって、隣町のドッグランに行くと、誰も僕達に罵詈雑言をぶつけてこない。 「あら、可愛いワンちゃんですね。お名前は?」 「あなたも綺麗な方ね。女優さん?」 「耳どうしたの?あら、生まれつきなの。よかったわ、怪我じゃないのね」 「私もオシャレ好きなの。LINE交換しませんか?」 僕達は地元じゃこんな事言われない。ここに来るとみんな優しい。レコさんも楽しそうに会話に応じている。 『なあ、お前。隣町から来たのか?俺はジョニーって言うんだ。一緒にあそこまで走らないか?』 僕も違う犬に話し掛けられ、友達が出来た。 ここは楽しい!僕もレコさんも、この町に住むべきなんじゃないかと思った。 でも、レコさんは何故か地元から出ていく様子を見せなかった。どんなに罵詈雑言を浴びせられても、歪んだ笑顔でかわしてきた。 そんなレコさんが初めて怒りを表したのは、僕が散歩中に石をぶつけられた時だった。 相手は男子小学生で、僕の事を汚い汚いと言いながら、石を投げてきた。危ないから止めなさい!と叱るレコさんを無視し、石を投げ続けた結果、僕の首に少し大きめな石が当たった。キャン!!と痛がる僕を見て、レコさんは「動物をイジメちゃダメ!」と小学生を怒鳴り付けた。大泣きする小学生の元に母親が飛んできて、レコさんと口論になった。何だ何だと野次馬も集まって来る。 「うちの子をイジメるなんて!このクソ女!」 「うちの犬に石を投げつけたのは子ですよ!どんなしつけしてるんですか!」 結果、野次馬が母親の方の肩を持ったせいで、レコさんの方が言い負かされた。 「子供イジメるなんて、やっぱり居村さんって頭がおかしい人なのよ」 「あんな汚い犬、石をぶつけられて当然よ」 「綺麗な人なのに残念な人ね」 野次馬が好き勝手言って散っていくと、母親は子供の手を引いて、レコさんを睨み付けて去っていった。 僕の頭に雨が当たった。上を見上げるとレコさんが泣いていた。 ここはまだケージの中なんじゃないかと思った。僕はあのケージから出されて、自由になった。でも、まだだ。この町も僕達を閉じ込めるケージだ。脱出しなければ、僕達は幸を掴めない。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加