幸を掴む

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僕達は隣町に住むべきだと確信した僕は、何とかしてレコさんを引っ越す気にさせる為に色々した。テレビで引っ越し屋さんのコマーシャルが流れる度にワンワン吠えたり、ドッグランに連れていってもらう度に、帰りたくないと駄々をこねた。しかし、全て失敗した。どうしてこのケージから出ていかないんだろう。僕は不思議に思った。 隣町には、顔馴染みが沢山居る。特にジョニーの飼い主とは、一番仲良しになっていた。 ある日、レコさんは仕事から汚れて帰ってきた。雨も降っていないのに、全身びしょ濡れで帰ってきた。驚いた僕は、脱衣所まで走って、ジャンプで棚にあるタオルをくわえ、また玄関まで走って行った。 「サチオ…有難う」 レコさんは僕を抱き締めて泣いた。 僕はレコさんの涙を舌で舐めた。 「優しいね。私、あなたを選んで良かった。あの時、一番生きるのを諦めていない目をしていたサチオは、格好良かったよ。…私も生きるのを諦めない。人の悪意から逃げるのは格好悪いと思って耐えていたけど、このままじゃ潰される。だからもう、生まれ育ったこの町から出ていくわ」 そう言ったレコさんの目に、決意が滲んでいた。足元には無惨に切り刻まれたレコさんの通勤鞄が転がっていた。
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