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振り回している気はないのだが、どうやらそう思われたようだ。
思えば躾をするとか言って喜久田から部屋を借りたのだ。殴られてもいいように辰は全身から力を抜いた。
沢城の拳はまだ食らったことがない。結構、力は強いのでそこそこな重さの一撃を食らうかもしれない。
いつでもこいと沢城をまっすぐと見つめれば、近づいたのは拳ではなく柔らかいものだった。
「え?」
驚いて目を見開くと、舌が中へと入りこんだ。
「んっ」
はじめて女とキスをしたのは中学のころだ。つるんでいた仲間の一人で、年上だったこともありリードしてもらった。
ただ、気持ちいいだけのキス。そこに心など一切なかった。
だが、いま沢城としているキスは違う。なぜ、唇を重ねているのかがわからず、彼を突き飛ばした。
「な、にを……!」
唇に手の甲を当てて濡れた唇を拭う。
「ふ、あはははは」
突然笑い出したと思えば、バカにしたような笑みを浮かべた。
もしや、辰を困らせるだけのためにしたことなのだろうか。
「い、なにを、だよ!」
一体何を考えているんだよ!
そういいたいのに、混乱と怒りで言葉にすらならない。
「クソっ」
文句が口に出かかったが必死でそれを飲み込んで、
「失礼しますっ!」
頭を下げて部屋を出ようとするが、腕をつかまれて沢城の方へと引き戻された。
「沢城さん」
「何、勝手に出て行こうとしているんです?」
首にぬるりとした感触。舐められたことに引きつった顔を沢城へと向けた。
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