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テーブルの上に置かれているのは食パンと調理されていない卵が二つ。
「えっと……」
これを食せよというのだろうか。
珈琲を飲みながら新聞を読んでいる沢城にそれを差し出した。
「あぁ。料理なんてしたことがないんですよ」
それはいわゆる辰に作れということなのだろう。
組に入って覚えたのは掃除と料理だ。喜久田に美味いと食べてもらえるのが嬉しくて料理は頑張っている。
「これ、買ってきたんですか?」
「何がいいとかわからないので適当に買ってきました。冷蔵庫に入ってますよ」
冷蔵庫を開けて中を覗き込むとハムとサラダ、牛乳にプリンが入っていた。
「プリン!」
沢城がそれを買ってきたのを想像して吹き出す。
「それ、貴方のために買ってきたんですよ」
さらっとそんなことを言われてプリンを手にしたままかたまった。
「ふ、そういうのに弱いんですね。真っ赤です」
いつの間に傍に来たのか、頬をツンと指で突かれる。
「うるせぇっ!」
その手を払いのけようとするが掴まれてしまい、文句を言おうと開きかけた唇は沢城にふさがれてしまう。
「ふ、あ」
ゆるりと口内をいじる舌に甘くしびれる。
沢城との行為は体中が覚えている。だから簡単にとろけてしまう。
「辰、いつか……いってくださいね」
ちゅっと音をたてて唇が離れ、とろとろだった辰が夢から覚める。
「なにを、ですか?」
何のことだと沢城を見るが、口元に笑みを浮かべて答えてくれない。
「さ、カシラが自慢するほどに美味い朝ごはんをよろしくお願いしますね」
とパンと卵を渡される。
「いや、これってただ焼くだけですから」
先ほどまでの甘い雰囲気は消えて、嫌味かよとカチンとくる。
わざと焦げたやつを食わせてやろうと辰はフライパンを手にした。
<了>
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