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名刺に書かれている住所を地図アプリで調べて向かう。
ビルの中へと入ると受付の女の人が笑顔で声をかけてくる。
「あ、えっと、喜久田さ……、喜久田社長に会いに来ました」
「お約束はされておりますか?」
「はい。ここに来いと名刺を渡されました」
「わかりました。少々お待ちください」
しばらくするとそこに現れたのは眼鏡をかけた男だった。
頭のきれそうな、しかも男前。笑顔を向けられているのにそれがなぜか怖い。
いつもの辰なら警戒をしていただろう。だが、喜久田に会える喜びで気が緩んでいた。
「あの、俺、西藤といいます」
「はい。喜久田から伺っております。部屋に案内しますのでついてきてください」
エレベータに乗り込み一つ上の階へ。案内されたのはがらんとした部屋だった。
「え?」
相手の方へ振り向くと胸ぐらをつかまれた。
「喜久田とはどういうお知り合いで?」
メンチを切る男は、やはりその筋なのだろう。鋭く射るような目をしている。
「明日からここに来いと名刺を」
ポケットに入っている名刺を取り出して男の目の前につきつける。
「どこかで拾ったのでは?」
それでも疑うことをやめない男に辰はだんだん腹が立ってきた。喜久田から誘われたのは事実だというのに。
「はぁ? おれは、ちゃんと喜久田さんから誘ってもらったんだよ」
男の手をつかみ引き離そうとするが、意外なことに力が強く、さらに締め付けられて苦しくなってきた。
「くそ、放せ!」
暴れてその手から逃れようとするが、男は意外と力が強く逃れられない。
それが悔しくもあり、余計に腹が立ってくる。
そこに、
「沢城さん、西藤の言っていることは本当です」
ドアを開けて中に入ってきたのは松原で、その言葉に沢城と呼ばれた男は掴んでいた手をはなした。
「聞いていませんよ」
「すみません」
「どうせ、カシラが私に伝え忘れたのでしょう?」
腕を組み指でトントンとたたく。
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