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喜久田は松原よりも上の人だとは思っていたが、沢城もそうなのだろうか。
「疑ってすみません。君、目つきが悪いから、他の組の者がカチコミにでも来たのかと思いました」
神経を逆なでするのが得意なやつなのだろう。ムカつきながら立ち上がる。
「はぁ、柄が悪くてすみませんねぇ」
「こら、西藤。本部長にたてつくな」
本部長と言われても、この世界のことはわからない。ただ、たてつくなということは自分よりも上ということだ。なので怒りを必死で押さえながら頭を下げた。
「あなたが面倒を見るのですか?」
「はい。カシラに言われたので」
「なるほど、適任ですね。彼、頭が悪そうですし」
「はぁ?」
メンチをきると、松原にやめろと頭をはたかれた。
「すみません。教育しておきますので」
と松原が辰の頭をつかんで頭を下げさせた。
「そうしてください」
沢城は部屋を出て行った。
「なんなんです、あの人」
「本部長。事務所の最高責任者だ」
「へぇ……」
頭でっかち、そんな男におもえた。だから辰を頭が悪そうだと馬鹿にするのだろう。
また思い出してムカついてきた。
「西藤、親と兄貴のいうことは絶対だし、礼儀をわきまえろ」
覚悟を持てといわれ、拳を強く握りしめる。
「はい」
「あと、沢城さんは誰に対してもああだから」
言われることを覚悟しておけば大丈夫だと親指を立てた。
「え、あ、はぁ」
天然かと、強面なのにちょっぴり可愛いと辰は心の中で思う。
「辰は雑用からはじめてもらう。先輩らのいうことをちゃんと聞けよ。あと、喧嘩をするな」
「はい」
これからここで生きていくためのルール。
いままで適当に生きてきたけれど、喜久田の下でなら自分はかわることができる、きっと……。
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