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苦手な男にかまわれる
月日のたつのは早い。喜久田に出会い、組に入って四年。周りからは西藤から辰と呼ばれるようになっていた。
しかも半年前には辰よりも五歳年上の下の者ができた。零が拾ってきたのが瀬尾だ。
辰よりも五つ上の下っ端なのだが、零や有働、そして喜久田までもが瀬尾のことを可愛がっていて面白くない。
不愛想で何を考えているのかわからない男のどこがいいのだろうか。嫉妬心は瀬尾に対して態度で現れる。
辰以外にも面白くないと思っている若衆はいる。だが、瀬尾に手を出したら零に何をされるかわかったものではない。
「あー、ムカつくっ」
「辰よ、瀬尾は零様の犬だぞ。聞かれたらヤバいぞ」
「でも、ムカつきません? まだ半年なのに、執行部に可愛がられているのって」
「はは。お前だって可愛がってもらっているだろう。沢城さんに」
その名前を聞いた途端、辰の機嫌がさらに悪化する。
沢城は本部長で賢くてしかも男前だ。確か、零の兄と同じ大学を出ていると聞いたことがある。普段は事務所にいて、そこで事務処理をしている。
「やめてくださいよ。その名前は聞きたく……」
「何です?」
背後に気配。辰はそっと後ろを振り返ると、沢城が冷たい目をして見下ろしていた。
身長は辰よりも高く、だが、松原までは大きくない。
「えっとぉ、沢城さんは何センチあるんですか」
誤魔化すようにへらりと笑い、どうでもいいことを口にする。
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