苦手な男にかまわれる

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「随分と仲間思いなんですね。私に口答えをするなんて」  ぞくっとくるような鋭い目をする。荒くれ者の中にいて舐められないのはこういうところか。  腕が離れ、辰は後ろへと一歩身を引いた。 「すみません」 「こんなところを誰かに見られたら貴方が大変ですよ」 「あー、でも沢城が悪けりゃとがめはしねぇけどな」  誰かが横やりを入れる。ここで沢城を呼び捨てで呼ぶのは零か執行部の人だけだ。  それに声を聴いただけでわかる。その相手が誰なのか。 「喜久田のカシラ」  若頭の喜久田と、その後ろには松原の姿がある。 「で、どうなんだ?」  鋭い視線。優しい顔をして怒ると怖い人だ。礼儀一つで他人に迷惑をかけることになる。 「俺が……」 「カシラ。躾は私の方でしますので」  辰の言葉をさえぎり、沢城がそう口にする。 「そうか。ご愁傷様」  ナムナムと口にし拝むように手を合わせる。 「え、カシラ!?」  不吉でしかない。松原も同情するように辰を見ているから余計にだ。 「あぁ、そうだ、瀬尾の様子は」 「はい。瀬尾は三日間監禁だそうです」 「監禁っ、ぶはっ、そうきたか」  腹を抱えてひーひーと声を上げる。 「さて、カシラ、部屋をお借りしても?」  沢城がちらりと辰を見る。いまから何をされるかとおもうと鳥肌が立つ。 「離れを使え。程々に、な」 「はい。失礼します。辰、行きますよ」  沢城の手が顔面をつかみ引き寄せられた。  手に力がこもる。払いのけたくとも、礼儀がなっていないから怒られたばかりだ。されるがままにそれに耐えていると手が離れた。 「ついてきなさい」 「はい」  そういわれ、俺には用はねぇよと心の中で悪態をつき沢城の後に続いた。
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