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1話 きっかけ
俺は初めてあんなに冷たく美しい目を見た。何も写さず澄んだその瞳は何の感情もないようだった。まるで星のない夜空。まるで何もない深海。何もないがための永遠を漂わせている。
...なんて綺麗で美しい目なんだろう。俺はその目を見てからその人のことが気になり出した。
そのきっかけは俺が中2のころ、彼女は中3の受験生だった。全校朝礼が終わり、ぞろぞろと教室へ戻っていく中、彼女を見つけた。...本当に『無』だった。行く先も写さないような、まるで1人だけ違う世界にいるかのような...そこで俺ははっとし、彼女と話してみたい、声をかけてみようと思った。だが初対面の、さらに知らない男に話しかけられて怯えはしないだろうか。中学生となれど、女子との体格差は大分違う。怖がられないだろうか。そんな考えが頭を駆け巡り、話しかけられずにいる間に、彼女は前へ前へ進んでいってしまう。すると彼女の友人であろう女子が彼女の肩に手を置いた。ビクッと肩を震わせそちらを振り返り、俺はその目を再び見て、息を飲んだ。
それはどこにもいる普通の目をしていた。
「...もう、びっくりしたー。」
「ごめん、ごめん。面白くてつい。」
そんな普通の会話をして、当たり障りない笑顔を向けて彼女は行ってしまった。一瞬で、すぐ一瞬で、彼女は瞳の色をかえた。『無』から『普通』へと、ごく自然に。まるで最初から俺が見た瞳なんてなかったかのように。それから3年生は受験モードへと、俺たち1、2年生とは離れて勉強に没頭した。彼女と会う機会はなくなり、すぐに俺たちは受験生となった。卒業式でミオという名前なのは分かったが、一言だけでも話したかったなという後悔が消えない。そういう思いを抱きながら俺は近くの進学校への合格を手に入れた。
期待していなかったと言えば嘘になる。狙ってこの高校を選んだわけじゃないと言うと嘘になる。だから、嬉しかったんだ。君を見つけて、また2年間同じ学校で過ごせると知れて。部活動体験の日、彼女は写真部にいた。俺は少しでも彼女との接点を作るために、小学校からやっていたサッカーをやめ、そこへ入った。少しやり過ぎかもしれない。だが、それほど彼女の瞳に俺は吸い込まれてしまったんだ。
かと言って部活以外で彼女と会う機会なんかなく、学校生活は中学の頃と同じようなものだった。そう1人でボーっと考えていると、いきなり後ろから腕が出てきて、俺の首にまとわりつく。
「なーに、ボケッとしてんだよ。ハルキ。」
犯人は俺の友達のダイワだった。その隣で、ダイワと同様俺の友達のミナトはニヤニヤ笑っている。
「ちょっ、ダイワ。絞まってる絞まってる。ミナトも見てないで助けて。」
「ハルキ...僕を巻き込まないで。」
「え!?」
「よし、ミナトもOK出したし今日は部活サボって遊ぼうぜ。」
「待って、会話が成り立ってないよ!?」
「え...めんどう。」
こんな会話は日常茶飯事だ。俺らは幼稚園から一緒で、ダイワに至っては母親同士が仲良しなため産まれてからずっとだ。その腐れ縁か、俺たち3人は同じクラスになった。『受験』という重りが外れ、今はその解放感によく騒いでいた。(特にダイワが。)
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