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随分とぽっかりしてしまったリュックを背負い直し、僕は目を塞いだ。
その時、リュックに括りつけてあった名札が、ひらりと揺れた。覚えたての拙い文字で、僕の名がそこに記してあった。
鶏青
……何も分からなくても、出来ることをしよう。僕を救ってくれたあの人と同じように。
猿真似でも、構わない。
「――ごめん、ルカ。待たせて。」
ルカは僕の呼び掛けには応えようとせず、ただ足元を見つめるだけだった。歪に眉を寄せて。
「ルカ?」
暫くの沈黙の後、僕は再び声を発する。どうやら、今度はルカの耳に届いたようだった。
「……何か、あったか。」
いつも通りの声で、ルカはそう聞き返す。
あ、いや――と、僕は一瞬口篭るも、そのまま続けて言った。
「ぼーっとしていたから。」
その言葉を聞いたルカは、無表情でまた歩き出す。
「何でもない。」
ルカは背中でそう言った。しかし、すぐに立ち止まる。
無表情にそれでいてどこか神秘的に、ルカは一呼吸置いてから
「やっぱり、頼みがあるんだが――」と、その話を切り出した。
「何も訊かずに、港について行ってくれるか。」
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