曇り

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 鴻業城と言うのが、この街の呼び名らしい。限りなく広く、その全貌は僕などには見えるはずもない。  港もあるだろうし、観光街もスラム地区も、その他いろいろ良からぬものも沢山詰め込まれている。サラダボウルみたいな街である。  その日の港は、潮風が酷かった。  鼻につくカビ臭い空気や、やかましく飛び回る小さな虫が、なんか嫌な感じだ。そんなことを考えていると、ルカに置いていかれそうになる。  ところで、ルカは頭がいい。何でも一人でこなし、そのくせクールに立ち去るような気高さがある。だからこそ、ルカが困っているなら力になりたい、なんて思ったりする。そのための勇気が僕にあるかは分からないけれど。  当の本人のルカはコンテナの迷路をツカツカと進み、とあるコンテナの端に凭れ掛かるようにして止まった。  僕も慌てて追いつき、ルカの視線の先に目をやる。好奇心と、拭いきれない不安感を抱きながら。
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