曇り

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 ――異様だった。  異様と言うのは、随分言い過ぎた虫のいい解釈であったかもしれない。  その光景自体は、日常ともある意味非日常とも取れる当たり障りのないものであったからだ。  数人の人影に囲まれ、見知る二人が立っていた。  一人は男で背が高くスレンダーだ。遠くからでも目立つ長く美しい金髪は、泥水を零したような色の空とは決して似合わない。  その隣は女で、健康的な小麦色の肌に黒いショート。こうして見ると、なかなかに対照的な二人組である。  然し視界を遮るように駐車してある高級車のせいで、やり取りは分からない。  この胸騒ぎは何なのか。空は泣いているようだった。海は怒っているようだった。  漠然とした不安感から、ルカの方をちらと見る――が、ルカは相手にもしなかった。今僕は、一体どんな情けない顔で彼のことを見ているのだろう。  遠くから、争うような声が聞こえてきた。女は腕を掴まれ、男は地に膝をついていた。  その時、男と目が合った。  叫ぶでもなく驚くでもなく、僕に気付いた男は小さく髪を揺らし――冷たく、微笑んだ。  一瞬の出来事だった。  蜘蛛の糸を切られたように、そのまま僕の意識は暗転した。
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