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他人事の社会人
明日、地球は滅亡する。
数十年前から予言されていた日が、目前となった。
「巨大隕石は進路を変えることなく地球へ迫っています。そのスピードは徐々に加速しており、明日にも衝突となるでしょう。」
ニュースキャスターがはっきりと簡潔に述べているにも関わらず、京平は焦りを感じなかった。
いや、正確には焦りは感じていた。
「ああ、もう遅刻じゃないか……。」
時刻は午前7時26分。駅までの所要時間が徒歩2分であることは、物件選びの上で京平が最も重視した条件だ。それでも、あと10分後に発車する電車に乗らなければ、遅刻してしまう時間だった。
京平はテレビを消すと、急いで家を出た。
雲ひとつない青空で、どこからともなく蝉の声が聞こえる。
じんわりと首元が汗ばんでいくのがわかった。
周囲を歩く人々も忙しなく駅へと足を運び、京平もその流れに乗った。
今日も今日とて、満員電車の構成員となるべく。
果たして本当に、滅亡なんてするのだろうか。
電車に間に合いそうだと気づき、少し余裕の出てきた京平の頭の中に、ふと疑念が生まれた。
見える景色は何年も前から見てきたものと変わらず、今日まで日々が続いていたように、明日からも変わらない日常がやってくるように思う。
そうでなくては、なぜ誰もが、変わらない今日を過ごしているのだろう?
スマホを取り出し、「巨大隕石 現在」で検索する。
すると、巨大隕石の現在の様子を、地球の裏側の人間が動画で生配信しているページがあった。
クリックすると、今まで見たこともない色をした空が広がる異国の風景が再生された。
そして、その空全体が、まさにあの巨大隕石であるとわかった。
こちら側では、巨大隕石は夜間にしか姿を見せない。
明日地球が滅亡するという実感がわかない原因も、そこにあった。
京平は巨大隕石が覆う空を見たことがないのだ。
こんな巨大隕石が、明日にも地球と衝突するだって?
チャラララチャラララ〜♪
不意に、聴きなれた高い音に意識をとられた。
会社の最寄駅だ。
発着ベルが鳴り、スーツを着た男たちが次々と電車へ乗り込んでくる。
「すみません、降ります!」
京平はわずかな隙間を頼りに進み電車を降り、会社へ向かった。
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